第7章
崩れゆく砦
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『ヒロに伝えておいて。もう独り立ちできる年なんだから、いいかげん、心配ばっかりかけるなって』
その言葉の意味するところに気づいて、翔は目を見張る。
『馬鹿なこと言ってないで引いてください。ここは、僕が…』
『もう、遅い。後を頼んだよ、翔くん』
それだけ言うと、潤也の気が膨らむ。咄嗟に翔は、その向かおうとする先に身体を張って立ちはだかろうとするする。が、竜王である翔の脇をするりと擦り抜けたかと思うと、潤也は、今まさに迫り来る父竜の巨体目がけて突き進んでいった。風の衣を身にまとい。
翔は無理やりにでも風竜の身体を掴み、そのまま瞬間移動するしかないと手を伸ばすが、それすら敵わなかった。
白い竜体は、寸分違わず巨竜の腹部の先程の傷を目がけて、その身を使って食い込むように突き刺さる。
途端、風が爆発した。
翔の目の前、目映い光と爆風が巻き起こる。その激しい風圧に、翔は吹き飛ばされた。
地面に叩き付けられて、今いた場所に目をやろうとも、それすら敵わない風の流れ。その中にあって、次第に薄れていく気を感じた。
見なくても分かる。かつて自分がその命を奪った時も、こんな風に気の薄らいで行くのを感じた。
幾つも、幾つも、この手で奪った命。
あの時と同じだった。
やがて、風が消えて行く。
その向こうに、くの字に身体を曲げたまま、ようようにして上空に浮く巨竜の姿が見えた。今の風竜の攻撃で深手を負ったことは、目に見えた。しかし、その傷も、時間をかければ癒えることだろう。
だが、今なら。
翔は歯を食いしばる。
潤也の作った突破口目がけて、竜剣を振りかざす。
何とか身を保とうとしていた父竜は、翔の動きに咄嗟に反応できず、腹に剣を突き刺さると思われた。
しかし、竜剣はその傷に届く前に、あっけなく跳ね返されたのだった。
『!?』
何か強力なバリアのようなものが、そこにあるように思われた。それが、竜剣をはじき返したのだ。
その手応えは、まるで…。
『これは…』
翔は、このまま敵討ちしたい気持ちを押し止どめた。
このバリアは、風の力によるものだ。だとしたら、潤也が何の考えもなく、ただ我武者羅に父竜に挑んでいただけではないのだとしたら、この力には何らかの意味がある筈だ。潤也の意思が込められているのだとしたら、それを無駄にしたくない。
翔は、剣を携えたまま、顔を上げた。
『もう、立ち去れ』