第7章
崩れゆく砦
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そう言って、父竜を睨み据える。
『罪のない人々の命を奪ってまで正当化される理由なんて、この世界には何一つないんだ。もしそれでも母女の裏切りが許せないと言うなら、僕達を倒すといい。だけど僕達は簡単にはやられない。凪ひとりにもそれれだけの痛手を負うんだ。子竜だと見くびっていた僕達は、全員、成竜になった。昔のようにはいかないと思っておくといい』
半分は張ったり、いや、それ以上か。しかし、これ程の傷を負ったことのない相手には、それなりの効果があったと見えた。
『見ておくといい。この街は貴方に壊されたけど、人々は必ず立ち直る。今までよりも強くなって何度も立ち上がるんだ。今の僕達には、その人間の血が流れている。だから、僕達は絶対に負けない』
父竜の鋭い眼光が翔を捕らえるが、翔は視線を逸らすことはなかった。
『この地から去れ。二度とこんな真似をしたら許さない』
言うとともに、翔は巨竜に向けていかずちを振り下ろした。大した痛手を与えるものではない上に、簡単に避けるものと思っていた。が、稲妻は竜体を直撃し、風竜の作った傷のせいか、巨体が大きく傾いた。
『この傷が癒えたら、お前たちの拠点へ赴く。覚悟しておけよ』
地面には落ちなかったものの、何とか体勢を整えると、父竜は低くそう告げて、そのまま姿を消した。
父竜の傷口から吹き出した気泡が消えて行くのを見ながら、翔は一気に気が抜けて行くのを感じた。そのまま、ゆっくりと地上に降りながら竜身を解いていった。
瓦礫の積み上がる大地に足をつくと、そのまま地面に崩れるように跪いた。
また、守れなかったのだ。
失ったものの大きさに、戦意さえも失いかける。
何よりも守りたかった者を失い、さらに、内心で一番頼りにしていた者も失った。ひどく心細くて苦しくて、不安な思いに押し潰されそうだった。自分で口にしたものの、立ち上がるのに一体どれだけの気持ちと力がいることか。
これから、何を寄り所にしていけばいいのか。
「翔くん…」
つと、背後から名を呼ぶ声が聞こえた。紗和のものだ。
握り締めた拳を地面に擦り付け、震える身体を押さえながら、翔は顔を上げる。
「それでも僕達は、前へ向かおう」
それが、決意。潤也の気持ちに向けた。