第7章
崩れゆく砦
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 分かっている。彼がそうと言い出せば、もう止めることなどできない。諦めの思いが先に立つ。が、潤也は揚から視線を逸らすことなく、きっぱり言い放つ。

「そんなことは、させない」

 言葉は強い意志を持っているが、潤也の周囲に沸き起こる風はほんの僅かでしかなかった。
 潤也にもこれが限界だと十分に分かっていた。隠そうとしていたが、揚の言う通り、もう転身どころか傷ついた人を見つけても治癒する力も殆どないのだ。
 それでも、逃げたくなかった。
 諦めたくなかった。

「僕に立ち向かおうとする態度だけは立派だが、そう言うのを犬死にと言うんだ。お前らしくもない」

 揚の言葉など気にもならず、潤也は相手をまっすぐに見据えた。

「あなたが悔しがることを、ひとつだけ教えてあげるよ」
「ほう」

 揚は、見下したように潤也を見やったまま。

「杳は綺羅の転生者だったんだ。あみやもね。何度も生まれ変わってくる。何年先か、何百年先か、『また再び』がないとは言い切れない。僕達を倒しても、その恐怖にあなたは、これからずっと脅えるんだよ」

 揚の身の周りに、見るも明らかな怒りの色をした気が立ち込める。

「ならば、全人類を滅亡させればいい。根絶やしにすれば転生もかなうまい」

 周囲が息をのむ中、潤也は何故かこんな場面なのに、笑みが込み上げてきた。かつて、似たような場面で、杳の言った言葉を思い出して。
 それは、自分が竜として目覚める直前、竜剣の力を前にして怖じけずいた時のこと。
 言っていたことは無茶苦茶だったが、それでも、潤也は勇気をもらった。

「…僕は逃げないよ、杳。だから、もう一度、僕に力を貸して」

 何者にも怯まない力を。
 立ち向かう、勇気を。

 と、潤也の周囲を取り巻いていた風の動きが、次第に強さを増していった。



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