第7章
崩れゆく砦
-4-
5/12
いつの間にそこにやって来たものか。疑問に思うが、すぐに、瞬間移動でもしたのだろうと思い至る。
聖輝がさっと身構えるのが、目の端に映った。現世のその姿に面識のない彼らにも、相手が誰なのか知れたのだろう。
「瀬緒に弓月か、成る程ね。ここで君たち全員を叩いておけば、戦力は半減と言うことか」
潤也達の方へゆっくりと近づいてくる揚。その間に割って入るように、紗和が立ち塞がった。
睨み上げてくる紗和に、揚は少しだけ肩をすくめて見せる。
「怒っているのかい? 僕の報復を」
「三人とも逃げるんだ」
揚の問いには答えず、紗和は気のバリアを張ろうとする。それを揚はひと睨みで霧散させた。
紗和は息をのむが、潤也達と揚の間に立ったまま動かなかった。
「珍しい。君でも逃げ隠れせずに弟達をかばえるのか」
揚の侮蔑の籠もった挑発にも、紗和は動じた様子さえ見せずに繰り返す。
「何をしている。早く…」
「逃げないよ」
紗和の言葉を遮って、ゆっくりと潤也が歩み寄ってきた。
「逃げたって、逃げ切れる訳ないしね」
潤也は、口元に笑みを浮かべる揚から視線を逸らすことなく言う。
多分、逃げ切れる可能性が最も高いのは自分であろう。この場は、聖輝と優の二人を連れて結界へ戻ることが最善なのだとも分かっていたのだが。
「完全復活しているみたいだ。勾玉を破壊したのか」
相手も力を押さえているのか、昨夜まみえた時とは、見た目には変わっては見えなかった。しかし、その底から伺い見える気の動きは、明らかに昨夜のものとは異なって感じられた。
潤也の言葉に、他の三人も身動きすらせず、揚を睨んでいた。
そんな四人を見回して、揚はまた軽く肩をすくめる。
「安心したまえ。君らのかわいい神子達は全員無事だよ。残念なことにね」
聖輝が、僅かに息を吐くのが分かった。潤也はそれを脇で感じながら、もう一歩進み出る。
その彼に、揚は呆れたような表情を向けて来た。
「竜気が殆ど残っていないじゃないか。それでは、転身もできまい」
揚の言葉に周囲が振り返るのも気にせず、潤也は返す。
「ええ。どこかの大馬鹿者がやらかした愚挙の後始末が大変なもので。面倒をかけられるのは、年少者だけにして欲しい」
「君たちに後始末を頼んだ覚えはないんだがね。自分の仕損じたことは、自分で片をつける。その為にやってきたんだが」
言いながら、揚は潤也達から目を逸らし、周囲に視線を巡らせる。そこにあるのは、瓦礫の山と、潤也達瓦礫の助けた怪我人達だった。
「僕としたことが、昨夜は苛ついていてね。中途半端にしかできなかったので、今度はきちんと市街地全域を粉々に破壊しようと思ってね。もちろん、そこら辺で蠢いている輩も楽にしてあげられるしね」
「!?」