第7章
崩れゆく砦
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「そろそろ終わりにしないかい?」
声をかけられて潤也は顔を上げた。
相手が近づいてくる気配を感じていたが、取り敢えず無視して仕事に専念していたのだが、仕方なく振り向いた。
そこに、声の主の紗和と聖輝が立っていた。
二人ともさすがに疲れの色を隠せない様子が伺えた。今日はもう限界なのだろうか。
昨夜は眠っていない紗和と優、少しは休んでいるだろうが昨夜の戦闘で疲れきっていただろう聖輝なのだ。
ここらで切り上げるべきだろうとは思った。なのに、自分は何故か疲れを感じない気がしていた。
「多分、もう全部終わったんじゃないのかな」
薄暗くなりかけた辺りを見回し、紗和が呟くように言う。
「そうだね。じゃあもう一度だけ全域を確認して、埋もれている人が見つからなかったら帰ろう」
「え、でも」
全域とは言っても、それをもう一度となるとかなりの時間を要するだろう。紗和がそれとなく異議を申し出ようとするが、潤也はそれを遮る。
「大丈夫だよ、僕がやっておくから。みんなは先に帰ってて」
「無理するな。お前、ぶっ倒れそうな顔してるぞ」
優が呆れるのを、潤也は何のことかと振り返る。
「まあ、少しは疲れてるのかも知れないけど、これくらいならまだ大丈夫。覚醒する前なんて、もっとしんどくても普通だったし」
そう、あの頃に比べれば、これくらいのからだの疲労は何ともない辛さだった。それよりも、動きを止めてしまう事の方が辛い気がした。身体を休めると、どうしてもあのことを考えてしまうのだ。だから、せめて今は集中して何かをし続けたい。
「それに、今なら助けられたのに、明日には手遅れなんてことがあったら、悔やむに悔やみきれないよ」
救えない命の分も、今救える命があるなら救いたい。
握り締める拳は、彼の人を思って強く力が込められる。
もう、絶対に嫌だった。失うものなど、見たくもなかった。この、同じ思いを誰にも味あわせたくなかった。
「分かったよ。じゃあ、後は僕が…」
紗和が引き受けると言う前に、潤也は首を振る。
「向こうのことも心配だし、新堂くんは先に帰っててくれない?」
「お前一人残して帰ったんじゃ、結崎のバカや大将がすっ飛んで来るだけだ。ここじゃ、役にもたたん戦闘バカの二人揃ってな」
聖輝が呆れ口調で言うのにも、潤也は背を向けたままだった。その潤也に、優も口添えする。
「何ならお前を眠らせてやるぞ。ダダをこねないようにな」
内容はどうあれ、有り難いい言葉なのかも知れないが、今の潤也には鬱陶しいだけに思えだ。しかし、自分がうんと言わない限り、この三人も動かないのかも知れない。
「仕方がない。手分けして最終チェックをしよう。陽も暮れてきたし。それで今日は終わろう。いいね、凪」
紗和の言葉に潤也は一瞬ためらって、しかし頷くしかなかった。
「OK。じゃあ、ここから向こう半分は僕が引き受ける。残りを凪と瀬緒で手分けして。弓月は凪について」
「何で?」
一人で大丈夫な潤也は不審そうに紗和を見て問うに、彼はしまったと言う顔をするが、すぐに返す。
「君の竜気、下がってきてるからね。念のため」
そう言われて潤也は僅かに眉をしかめる。が、それ以上何も言わず、紗和に背を向けた。
「じゃあ、先に行くから」
言って潤也は、ゆっくりと人の気配を探り始める。
と、背後で急に紗和の気が膨れ上がるのを感じた。
何事かと振り返ったそこに。
「死んだ者は放置か。冷たいものだね」
紗和の立つ向こうに、揚の姿があった。