第7章
崩れゆく砦
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 紗和が瓦礫に埋もれた人々を救出して、術をかけて眠らせる。聖輝がその傷を癒していく。段取りよく、流れ作業でこなしていった。

 その手を止めて、紗和が呟いた。

「この辺りも、これで最後かな」

 父竜の破壊したのは、街の中心部のみであったた。その為、救出活動も比較的狭い範囲で済み、意外とスムーズに行えた。勿論、自分達も、一刻も早くと言う気持ちをもって事にあたっていたのも理由のひとつだろう。

 そして、夕刻を迎える頃にはほぼ完了したのではないかと思われた。

「そろそろ仕舞うか」

 最後の一人の傷に癒しの術をかけながら聖輝も答える。その言葉に頷く紗和。

「そうだね、むこうの様子も気になるし」

 それにと言いかけてやめる。後方で気配のする潤也は、昨日から戦闘と負傷を繰り返して、相当に疲労がたまっているだろうことが伺えた。ねぎらいの言葉でもかけたいのだが、そのことを相手に言うと、却って怒らせそうに思えた。

 潤也は、紗和が家族の安否を確かめに、実家と、思った通り手間取ってしまった姉の徘徊先に行っていた間にも、何も言わず、ずっと紗和の分までも救出活動をしてくれていた。

 気配りもできて、やることは全てそつなくて感心するものの、紗和は少し嫌われているような気がしていた。

「どうしてかなぁ。一番頼りにしているのに」

 呟くように言った言葉の内容が通じたのか、しかし聖輝は顔を上げることなく返す。

「あいつは凪じゃない」
「え?」
「常に冷静で、俺達のずっと先を見ながら行動するところなんて、そのものだけどな。だが、今のあいつは脆いぞ。お前らが思っている以上にな」
「僕ら?」

 問い返す紗和に、聖輝は作業を終えて立ち上がる。そして、凝った肩をほぐすように腕をぐるぐる回しながら、潤也達の気配のする方向に目を向ける。

 先程向かわせた優の、気づかれないように使われている気が、潤也の心をそれとなく癒していた。今はそれくらいでしか、彼を休ませる方法が見当たらなかったのだ。

 多分、昨夜は一睡もしていないだろう。

 杳のいなくなった今の自分達の中で、絶対に欠けてはならないのは彼なのだと聖輝は思っていた。ともすればバラバラになりそうな自分達を何とか繋ぎ止めているのは潤也なのだから。

 特にあの大将――翔。今は何とかもっているが、かつてのあみやの件から考えてもかなり危うい。いざと言うとき、その彼を押さえられるのは、翔自身も言っていたとおり、頼り切って何でも押し付けてしまっている相手である潤也なのだ。信頼を受けている唯一の人物なのだろうから。

 その点を、このもう一人の大将が分かっているかどうかも怪しかった。

「何にせよ、もう勝手な行動は謹むんだな」
「瀬緒…」
「まずは、その呼び名から直せ。俺は静川聖輝だ」

 そう言って聖輝は、潤也達の方へ向かおうと歩きだす。慌てて紗和はそれを追う。

「じゃあ、君は何て呼べばいい?」
「静川だ。結崎達もそう呼んでいるだろう」

 追いついてくる紗和に、聖輝は顔を向けることなく答える。その彼に、紗和は困ったように返す。

「呼び捨てでいいのかなぁ? 現世では年上だよね? でも、瀬緒に敬語も『さん』づけもできないし」

 その言葉に、聖輝はようやく横目で紗和を見やる。

「やっぱり無理だね。瀬緒は瀬緒、凪は凪だ。僕にとって、君たちとの関係は、それ以上でもそれ以下でもないよ」

 きっぱり言い切る紗和に、聖輝は幾分呆れながら呟く。

「葵翔だけは現世名で呼ぶのにな…」

 それが聞こえただろうに、紗和は聞かぬフリをして聖輝を追い越していく。その背に、もう一度呟く。

「大将だけは別格か」

 翔といい、紗和といい、どうしてみうも自分本位なのか。

 その性質がひどく父竜のものに似ている気がして、聖輝は思わずため息がもれた。


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