第7章
崩れゆく砦
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 枯れ果てた荒野の方がまだマシだと、広がる瓦礫の山を見つめて潤也は思った。

 この瓦礫を元の街の形に戻すつもりはなかった。やろうと思えば出来ないこともないだろうが、それを目の当たりにする人々の記憶の操作の困難さがあった。そして、何よりも亡くなった人間が大勢いるのだ。その命を元に戻せない以上、中途半端に建物だけを元に戻すことは出来ないと考えたのだ。

 今は敵とは言え、身内の父竜のした行為の償いをしなければならないのだと分かっている。だから、自分達のするべき方法を選んだ。

 瓦礫の中で待つ人々を救い出し、致命傷となる傷だけを癒した。これ以上、ひとつの命も失われることがないように。

 簡単には言うが、その数は途方もなく、紗和や聖輝と手分けをしても追いつけない程だった。

 まだ雪の残る春先の札幌にいるのに、潤也は汗ばむ額を軽く拭って一人ごちた。

「がんばろ」

 そして、ゆっくりと辺りの気配を伺った。消えそうな命が隠されていないかどうか、僅かな息遣いを辿って。

 と、その中に覚えのある気を感じて眉をひそめた。

 放っておいても良いかとも思っていったん背を向けたが、また要らぬ妨げになっても困ると思い直し、ため息ひとつついて、その気配のする方向へ向かった。

 案の定、そこに少女が佇んでいた。彼女――滝沢雪乃の姿に潤也は声をかけた。

「こんな所で何をしているんだい?」

 気配を殺して近づいた訳でもないのに、相手は潤也に気づかなかったのか、驚いたように肩を震わせて振り返った。

「風竜…?」

 そのまま逃げようとする。潤也は、とっさにその身を風のバリアで縛り付けた。

「ちょっと、何するのよ? 放しなさいよ」

 無駄な抵抗だと分かっているのに、雪乃はジタバタと暴れるものだから、潤也は呆れつつも力を緩めた。途端、自由な身になった雪乃は猛ダッシュで逃げ出そうとする。

「あ、ちょっと…」

 待てと言って待つ相手ではないと思ったが、彼女はその足を止めた。潤也の声に立ち止まったのかと思ったが、その彼女の向こうに別の影が見えた。

「何やってるんだ? 早くしないと日が暮れるぞ」

 そう言って姿を現したのは優だった。紗和に付き添って彼の家族の安否を確認に行かせたのだが、もう戻ってきたのだろうか。

「杉浦くん? 新堂くんは?」
「むこうで、ものすごい勢いで救出活動をやってる。そこら辺にいた水竜を捕まえて手伝わせてるぞ」

 優は雪乃が睨んでくるのも気にせず、彼女の脇を通って潤也に近づいてきた。が、視線は他に向いているのに、そのまま逃げ出そうとする雪乃の腕を素早く捕まえた。


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