第7章
崩れゆく砦
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 口元だけで笑う揚。

「てめーっ、返せっ!」

 勾玉を取り戻そうと、寛也は揚に突っ込んでいく。その目の前、勾玉は揚の手の中で簡単に握り潰された。グシャリと砂利の擦れる音がして、他の勾玉と同様、粉々になったかと思ったら、ゆるやかに風に溶けていった。

 あっと言う間のことだった。

 後に残ったのは、少しだけ手のひらに火傷の跡のような赤みを残した揚の手だった。その赤みも、瞬く間に消えていった。

 目の前で膨らんでいく圧倒的な力。

 が、その瞬間、寛也は相反するもう一つの小さな気を感じた。それは消え入りそうなくらいにかすかなものだった。しかし、とても愛しい者のものであると、寛也には確かに分かった。

 それと同時に、その気が纏っているもの――。

「まさか…」

 呟く寛也の声は、解放されたばかりで喜びに満ちる相手に聞こえることはなかった。その気の行方を探ろうとする寛也の耳に、勝ち誇ったような揚の声が聞こえた。

「簡単だったな」

 はっと思って顔を向けると、口元を吊り上げて笑う揚の顔が目に映った。

「逃げろ、結崎っ!」

 露の声が聞こえた。途端に寛也は全身に衝撃を覚え、息もできないくらいの圧力を感じた。

 目の前が一気に暗くなり、巨大な影が辺りを覆い尽くすように広がっていった。巨竜が視界を埋め尽くす。

 浅葱達の悲鳴が聞こえたが、助けに向かうどころか動くことすらできずに、寛也は身に受ける圧力に耐えるのが精一杯だった。

『おまえだけは、ここで息の根を止めてやろう、戦』
「くっ…」

 何とか体勢を整えようとするが、余計に身体が重くなる。

『杳くんに会わせてやろう』

 杳の名に、一瞬迷いかけた寛也の気持ちが奮い立つ。先程感じた、生まれたばかりのような小さな気が我が身に染み込んでくるような気がした。

 父竜の振り上げられた雷が、倍の重さを伴って寛也の頭上に振り落とされようとするのが見えた。

「ざけんんじゃねーっ!」

 叫んで、寛也は身に力を込めた。

 途端、紅蓮の炎が吹き上がった。



   * * *




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