第7章
崩れゆく砦
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「お前まで一緒になって何だっ?」
「寛也さんの為なんですっ」
その言葉に、寛也はビクリとする。言ってしまった浅葱の方も一瞬気まずそうな表情を浮かべるが、すぐに口調を和らげる。
「寛也さんだけじゃないんです。僕達みんな、杳さんが大好きだったから、生き返って欲しいんです」
浅葱の言葉に、寛也はつかんでいた碧海の胸元を放し、浅葱の手も振り払う。
「ばかやろうっ。杳を殺した張本人が杳を生き返らせると思うかっ。こいつは杳のことを…」
寛也は揚を睨み据える。
「おやおや。とんだ邪魔が入ったようだ」
肩をすくめる揚。寛也はとっさに手のひらに気の球を作り始める。寛也の周囲に熱が集まり、急激に温度が上昇する。
「ダメだろう? こんな所で力を使ったりしたら、その子達、焼け死ぬことになるよ」
揚に指摘され、寛也は慌てて碧海達を振り返る。後ずさって行く彼らに、寛也は仕方なく竜気を静めた。
「そうそう。君の力は人間にとっては凶器だ。全てを焼き尽くすばかりで、何も生み出さない炎の力は」
寛也はムッとする。
「全てを生み出す力を持っているくせに、破壊しかしねぇお前の力よりマシだ」
それに、こんな力でも杳だけは違った。他の誰のものも受け入れなかった杳が、唯一受け入れてくれたのだ。癒しの力でもない寛也の力を。
「お前の言うように、俺の力は凶器かも知れねぇけど、大事なものを守る為の力だ」
杳は守りきれなかったが、杳の守りたかったものは自分のこの手で守る。
「お前ら、下がってろ」
寛也は揚を見据えたままで言う。
「今度こそ、叩きつぶしてやる」
「ちょっと待てよ、結崎」
露が二人の間に割って入る。寛也は膨らみかけた気を少しだけ押さえるが、表情は変えず。
「どけ、水穂」
「杳が生き返るかも知れないんだぞ。たったひとつのチャンスじゃないか」
「こいつの嘘にだまされてんじゃねぇよ。こいつにそれができたとしても、杳だけは生き返らせることはしねぇよ」
「でもな…」
言い合う二人に、揚の笑い声が聞こえた。
「そんなに信じられないのなら、見せてあげよう」
口元だけで笑いながら、綴られる呪文。
と、揚のすぐ脇に、ぼんやりと気の塊が生まれた。
「!?」
それが形作るものに、一同は息を飲んだ。
華奢な四肢が淡い霧の中に現れ、人の姿を形作る。その白い顔が僅かに上げられた。
「杳…」