第7章
崩れゆく砦
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問い詰めてくる百合子から目を逸らして、揚は美奈に問う。
「杳くんを生き返らせたいんだろう? だったら君達自身で勾玉を壊してくれないか? そう、道具が必要なら…」
揚が右手のひらを広げると、そこに金属バットが現れた。反対に、左の手のひらを広げると、今時めったに見られない斧が現れた。しかも、何を思ったのか、金でできていた。とすると、金属バットはもしかして銀細工だろうかとつまらないことを考えようとした美奈の前に、揚はその両方を差し出す。
「どちらが使いやすいかな?」
笑顔のままの揚に、美奈が手を差し出したのは金属バットの方だった。その美奈の前に碧海が立ち塞がる。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
「女の子がそんなもん持って振り回すなって。オレがやってやる」
「え…」
そう言った碧海の横顔に、少し驚いたような目を向ける美奈。
碧海は揚からバットを受け取って、足元に自分の勾玉を置く。
「杉浦、お前、斧持つか?」
ふと振り返って聞く碧海に、浅葱は一瞬顔色を変えて、慌てて首を振る。
「ムリムリッ」
「やっぱなぁ…」
呟いて、碧海は自分の勾玉を見やる。
青く、僅かに明滅する珠玉。水無瀬村で手に入れてから、ずっと持ち歩いていた。自分をここへ導いた玉だ。色々と迷惑を被ったこともあったが――。
振り上げたバット。
思わず目を瞑って振り下ろそうとした時。
「ばっかやろーっ!」
声とともに轟音が耳に届いたかと思うと、手にしていた金属バットに衝撃が走った。
「いてっ」
碧海は思わずバットを取り落とす。足元に転がるそれを見やると、熱を帯びて赤くなり、アスファルトの上で既に半分溶けていた。
ギョッとして声のした方を振り返ると、そこに寛也が全速力で駆けてきていた。その後を追ってくる露の姿もあった。
「お前ら、何やってんだっ!?」
「待てって、結崎」
止めようとする露を振り払い、寛也は碧海達の前まで来て、碧海の胸倉をつかみ上げる。
「こんなことして、たとえ杳が生き返ったとしても、喜ぶと思ってるのか、この馬鹿っ!」
碧海を殴りかねない様子の寛也に、浅葱が止めに入る。
「やめてくださいっ」