第7章
崩れゆく砦
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父竜――揚の指定してきたのは、先程の遊園地の門の前だった。が、彼は浅葱達が降り立ったバス停に、文字通り、突然その姿を現した。
翔達の使う技と同じ瞬間移動に、未だ慣れずにいる一同はそろって後ずさった。
「思ったよりも早かったじゃないかね。どうやら勾玉は…揃っているようだね」
気配を探って、それだけでその存在が確認できるのだろうか、揚はにこやかに言った。
彼を目の前にして、4人は思わず走り去ったバスの後ろ姿を見やってしまった。少し心細くなる。が、ここまで来た以上、もう後戻りはできない。
「勾玉は持ってきました」
碧海はポケットに入れていた赤玉を取り出した。手のひらに広げてみると、昼の光の中でぼんやりと赤く光を放っていた。他の3つの勾玉が側にあるから共鳴しているのだろうか。
その光に、揚は一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに表情を戻す。
「これで本当に杳さんを生き返らせてくれるんですよね?」
まだ半信半疑だった。いや、むしろ疑いの方が大きい。しかしここで彼を拒絶すれば、杳は二度と生き返らない。ほんの僅かな希望であっても、賭けてみるしかなかった。
浅葱は恐れる気持ちを隠して、問う。
「僕にかけられた封印が完全に解けたらね。まずは君達の勾玉をすべて出してもらおうかな」
言われて浅葱と美奈、百合子もそれぞれ持って来ていた勾玉を取り出して、揚に見せた。
4つの勾玉は、それぞれに淡い光を浮かび上がらせていた。
「間違いないようだ」
口元に笑みを浮かべて、揚は浅葱達を見回した。
「では、封印を解いてもらおうか」
「封印を解く…?」
4人は顔を見合わせて、その方法を知らないことを互いに確認する。そんな浅葱達に揚は呆れた表情を作る。
「やれやれ。残った神子達は大した術を使えないようだね。杳くんは相当な術者だったのに」
それこそ、揚の動きすらも封じてしまう程の。しかし、そんなことを言われても、浅葱達は方法も知らなければすべもなかった。
「そう言えば、杳くんが前に言ってたわ」
ふと、思い出したように口を開いたのは百合子だった。
「封印を解くには、勾玉を破壊すればいいって」
ひそひそ声だったが、それが聞こえたのか、揚は笑みを浮かべる。
「だから、君達の力が必要なんだよ。勾玉の守護者である君達の力で、勾玉を破壊してくれたまえ」
揚の口調が気に入らず、百合子の奇麗な眉がピクリと引きつった。
「加えて、弱い力の者は破壊することができないとも言っていたわ。つまり、強い力の持ち主には、それができるってことよね?」
百合子は揚を睨む。
「あなた程の力があれば、容易いんじゃないの?」
百合子の言葉に、揚はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「いくら力が強くてもね、封じられた本人にはそれを打ち破る力はないんだよ。分かったかい?」
しかし、百合子は揚を睨んだままだった。
「黄玉がなくなって、半分以上の封印が解けているって聞いているわ。それなのに、自分で破壊できないなんて変じゃない? わざわざ私達に勾玉を壊させる意味が分からない。何をたくらんでいるの?」