第7章
崩れゆく砦
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「あれ? 水穂、また出掛けたのか?」
結界の出口で露を見送る翔を見つけて、寛也は何事かと声をかけた。と、驚いたように振り返る翔。その表情に訝しむ。
「ええ、ちょっと偵察に。父竜がまたうろついていたら大変なので」
咄嗟に返す言葉に、寛也は眉間に皺を寄せた。
「単独行動はしないんじゃなかったのか? それなら俺を呼べよ」
寛也はそのまま露を追いかけようとする。翔は慌てて寛也の前へ回り込んで、それを止めた。
「何だよ?」
「ヒロ兄は疲れてるでしょ? だから、休んでてください」
「何言ってんだ。災害復旧に出掛けた奴もいるのに、俺一人が何で休んでなきゃならないんだ?」
訳の分からない事を言う奴だと思う寛也は、翔を無視して露の後を追おうとする。その腕をつかまれた。振り返ると、翔が困ったような顔で見上げていた。
「本当にいいんです。水穂んく一人で大丈夫ですから、ヒロ兄はここにいてください」
いつにない言葉に、違和感を覚えない訳がない。
「お前、何か隠してるな?」
問われて翔は俯いた。
「言えよ。ジュン達もいないんだし、俺達だけで互いに隠し事してても始まらねぇだろ」
「ヒロ兄だって望んでいることだと思いますよ。だから、邪魔しないでください」
「望んでいること…?」
もう一本、眉間に皺を寄せる寛也。
その寛也から、翔は視線を逸らした。
杳が生き返る方法は、たったひとつしかない。自分達よりも力のはるかに勝る父竜の力を持ってして生き返らせる――望み薄いと分かっていても、それに掛けたくなる気持ちは如何ともし難かった。たとえそれが最悪の事態に結び付こうとも。
守るべき者のいない世界に、何の意味があろうか。
押し黙ってしまい、理由を言おうとしない翔に、寛也は見切りをつける。つかまれていた手を払いのけ、そのまま黙って結界を出ようとする。その寛也の前に、尚も立ち塞がる翔。
「お願いですから、ヒロ兄はここにいてください」
「…」
寛也はそう言う翔を見下ろすが、目を合わせようとしない彼に何を言っても無駄だと思った。