第7章
崩れゆく砦
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こっそり抜け出して行く4人を、翔は黙って物陰から見送った。その彼に、露が声をかける。
「いいのか? あのまま行かせても」
結界の中での4人の会話は、翔には筒抜けだった。彼らが何をしようとしているのかを知って尚、翔は止めようとはしなかったのだった。
「勾玉は彼らのものだから、僕達には口出しできないよ」
勾玉は、元々は綺羅のものだ。しかし、綺羅の死後それを5つに分かって、竜の宮の神子達に委ねたのは自分達なのだ。
「そんなこと言って。勾玉が壊れたら、父竜は完全に復活して、もうオレ達じゃ太刀打ちできなくなってしまうんだぞ」
詰め寄る露に、翔は笑みすらこぼして見せる。
「今でも太刀打ちできてないよ」
杳を守ろうと全力で立ち向かった昨夜、自分は敗北した。
まだ炎竜の力は計り知れない部分があるようだが、杳を失った寛也が果たしてどれ程の戦力になるものなのか、翔には疑わしかった。その上での戦力の差は大き過ぎた。それならば、浅葱達の自由にさせてあげようと思ったのだった。
どうせ、敵わないのであれば。
「敵が約束したように、ホントに杳が生き返ればいいんだけど、どう考えたって敵がそんなことするとは思えないだろ。結局、無駄足だって。また傷ついて帰ってくるんだぜ、あいつら」
「その時には水穂くんが元気づけてあげてよ」
「何でオレがー?」
目を丸くする露に、翔は小さく笑って返す。
「僕より得意そうだから」
「お前と比べるな」
まったく自分勝手な奴だと愚痴をこぼす露。
「それより、あいつらの護衛、しなくていいのか?」
勾玉を壊してしまうのなら、直接敵に狙われる危険は薄くなるとは思われるが、父竜のこと、何をするか分かったものではなかった。そう心配する露に、翔は少し考えてから。
「なるべく気配を殺して、敵に気づかれないようにしててくれれば、後をつけてもいいいよ」
本心は露を行かせるつもりはないのだろう。翔にとっては、今は神子達の命よりも戦力の方が優先なのかも知れないと、翔の答えに露は思った。
「結崎は…」
言いかけて、気配を消せない彼を連れていくことは、かえって危険だとすぐに気づいた。一人で行くしかないと、露はそのまま4人の後を追うことにした。
「もしもの時は彼らを見捨ててもいいから、全力で逃げ帰って」
露一人ではどうしようもないのだと言外に含ませる翔の言葉を、肩をすくめるだけで返した。
実際、露自身もそのつもりだった。
* * *