第7章
崩れゆく砦
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「そんな裏技があったのか…」
結界へ戻るまで、美奈と百合子は遊園地であったことを寛也と露には何も言わなかった。彼らに話す前にと、帰宅する早々に寛也達の目をかすめて、二人は浅葱と碧海の部屋を訪ねた。そして、揚から言われた内容を二人に話して聞かせたのだった。
期待に目を輝かせる碧海とは反対に、明かに顔色を変える浅葱。
「神…なんだ…」
声が震える。
自分達の対峙しているものの大きさに、浅葱は今更ながら恐怖する。が、碧海は有頂天だった。
「杳さんが帰ってきたら、きっとみんな元気になるよ。ハーレムだし」
「ちょっと待ってよ、碧海」
碧海は勾玉を荷物の中から取り出そうとする。それを慌てて止める浅葱。
「考えてもみてよ。今朝、札幌で何があったのかを。死者も出てるんだ。そんなことを平気でするような人が、自分への戒めが解けて自由になった時に、本当に杳さんを生き返らせるなんてすると思う?」
浅葱には、とても考えられなかった。少なくとも、自らの手で死に至らしめた者をわざわざ蘇らせるなど、絶対にないだろうと思われた。
「それじゃあ、どうやったら杳さんを助けられるの?」
美奈の問いに、浅葱は厳しい表情を向ける。
「死んだ人は、生き返らないんだよ」
「そんなこと、分かってる。でも、できるなら助けてあげたい」
俯いて、握りこぶしをしたままで言う美奈。
元々、浅葱も反対したい訳ではない。杳を助けたい気持ちは、同じようにあるのだ。
それに何よりも、打ちひしがれている寛也――あの晴れ渡った、暑苦しいくらいの夏の空のような彼が、すっかり塞ぎ込んでいるのを見ていられなかった。
あの、浅葱の頭を撫でる大きな手が求めているのは――。
苦しくなる胸の内を押し殺して、呟くように言う。
「それで…万が一でも、叶うすべがあると言うなら…」
浅葱も、自分の荷物の中から勾玉を取り出す。これを守って、旅してきた日々を思い起こす。
祖父の手から託された日からずっと。
そして、決心したかのように立ち上がり。
「行こう、父竜に会いに」
「相談…しなくていいよね?」
翔達に。問う美奈に、浅葱はうなずく。
「彼らに相談しても、多分、反対されると思う」
特に、間違いなく、寛也に。
「反対されたら、方法がなくなる。僕達だけで行こう。杳さんを生き返らせる為に」
そう言って、浅葱は勾玉を握り締めた。
* * *