第7章
崩れゆく砦
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絶叫マシーンにスタンディングコースターと、次々に絶叫系のアトラクションに乗せられ、へとへとになって美奈と百合子はベンチに座り込んだ。彼らのペースに会わせていたら、身が持たないと思ってしまった。沈んでいた気分も、どこかへ逃げ出してしまったようだった。
そんな女の子達二人を置いて、露は次なるスリルを求めて寛也を引っ張って行った。
「大丈夫、美奈ちゃん?」
自分も目が回ったことだろうに、百合子は心配そうに美奈の顔を覗き込んだ。美奈はムッとした顔をいきなり起こして。
「何なの、あの二人はっ! ただ、自分達が遊びたかっただけじゃないのっ!」
思わず叫んでしまったのは、嫌だと言うのに無理やり絶叫系に乗せられ続けた後遺症だった。その美奈に、百合子は笑いながら言う。
「そのお陰で、元気になったじゃないの?」
言われて美奈は、叫んだ口を慌てて塞いだ。今頃気づいたようだった。
「二人とも、いい人だわ。杳くんは彼らにとっても大切に存在だったのにね。それに、本当はこんなことしている場合でもないのに、私達の為に…」
「うん」
うなずく美奈。
特に寛也は杳と仲が良かったと聞く。杳を亡くした傷は、自分達よりもずっと深いものだろう。それなのに、気遣ってくれているのが伝わる。
「ユリちゃん、あたし、もう大丈夫だよ」
美奈ははっきりとした口調で言って、しっかりと顔を上げる。
「だからもう、帰ろう。清水くん達、待ってる」
笑顔を浮かべようとする美奈に、百合子は柔らかく笑む。
「そうね。じゃあ、もうひとつ乗ってからね。その後、みんなにお土産を買って帰ろう」
「うんっ」
元気に答えて、美奈は百合子の差し出したジュースのストローに口をつける。百合子も美奈と同じようにベンチに座り、サンバのリズムに耳を傾けた。
寛也達二人は美奈達の視界内から出ない場所でアトラクションに乗っていた。今はスカイサイクルと言う、上空の高いレールの上を自転車に乗ってサイクリングしているのだが、下から見上げても怖そうだった。それを、楽しそうに手を振っていた。
呆れながらも手を振り返す百合子の前に、ふと、人影が差した。
「お嬢さん達、こんな所で息抜きかい?」