第7章
崩れゆく砦
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露はすぐに部屋を出て行こうとして、障子を開けたそこで思わぬ人物に出くわした。寛也だった。その後ろに浅葱もいた。
きっと彼が上手に説得してくれたのだと、誰もが思った。
「人手不足の時に、悪かったな」
全く悪びれた様子もないその表情に呆れる露。
その背後から、翔は明るく返す。
「じゃあヒロ兄、お願いします」
今まで寛也に対しては見せたことのない話ぶりに、寛也は一瞬面食らいながらもうなずく。
「よしっ。じゃあ早速出掛けるか」
気を取り直して元気良く言う露。が、その彼に寛也は腹を押さえながら言う。
「その前に何か食わせろ。腹へって…」
言った途端、寛也の腹の虫が泣き出した。さすがに情けなさそうな顔を見せる寛也に、ホッとしたような笑いが巻き起こった。
* * *
「それで、何て言って説得したの?」
寛也達の出発を見送り、翔は広間に戻ってから浅葱に聞いた。
浅葱は何のことかとキョトンとした顔をするが、すぐに思い当たったように、少し笑む。
「寛也さんのこと?」
「ちょっとやそっとじゃ、人の意見なんて聞かないだろ、あの人」
そんな所は杳とは似た者同士なのかと思いながら言う翔に、浅葱はそうだねと笑う。
「でも、僕が行った時にはもう、その気だったみたいだよ。僕の意見なんて、必要なかったみたい」
本当に、何を切っ掛けに機嫌を直したのか不思議だった。
「それからね、寛也さんに聞かれたんだ」
――こんな状況でも、杳だったらまだ俺たちの勝利、信じてくれるかな?
そう聞いた寛也の背はどこか力強く見えて、浅葱の返事なんて要らなかったのではないかと思った。
「僕には良く分からなかったけど、うんって言ったら、ありがとうって言って、また頭を撫でられたよ」
「そっか…」
翔は小さく息を吐いて。
「杳兄さん、まだ僕達を支えてくれているんだね」
自分はこれまで杳を守ることだけを考えて生きてきた。その最大の支えを失って自信をなくした自分でも、尚、杳は信じていてくれるだろう。寛也もきっとそう確信できたに違いない。
立ち止まってはいけないのだ。この思いを胸に、今度こそ逃げないと、翔は改めて誓った。