第7章
崩れゆく砦
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「何か用か?」
思わず出たのは、ぶっきらぼうな口調だった。しかし相手はその物腰に似合わず、動じた様子も見せずに、少し笑みさえ浮かべる。
「お願いがあるんですが?」
浅葱は部屋へ入ろうか入るまいか少しだけ迷ってから、ゆっくり足を踏み入れた。
「美奈ちゃんたち、少し外へ出してあげたいんです。それで寛也さんに…」
「ボディガードか?」
用件が露と同じだとは、すぐに気づいた。翔がここから動けない以上、単独行動が許される状況ではないならば、寛也が同行するしかないのだ。
仕方無さそうに立ち上がる寛也に、浅葱は少し驚いた顔をする。
「どうした? 頼みに来たんじゃないのか?」
「あ…いえ…ありがとうございます」
どれ程に意気込んで来たのか、浅葱は拍子抜けしたような顔を見えたが、すぐにペコリと頭を下げた。寛也はその頭のてっぺんに手のひらをのせて、ぐりぐりかき回した。
「ひ…寛也さんっ?」
慌てて飛びのく浅葱は、少し顔を朱に染めていた。それに気づかず、寛也は思わず笑ってしまう。
「お前のその癖、直らねぇよなぁ。もう家族も同然なんだから、遠慮するなって言ったろ?」
そう言ってから、寛也はまだ赤くなる浅葱の脇を擦り抜けて、廊下へ出た。
慌てて追いかけてくる気配がした。その浅葱を振り返ることなく、寛也はポツリと呟くように言う。
「こんな状況でも、杳だったら…」
寛也を見上げてきた奇麗な顔に、僅かに浮かぶ笑み。
――信じてるよ。
杳が言ってくれた。
寛也はその一言だけで、また、前へ進んでいける気がした。
今でも。
* * *