第7章
崩れゆく砦
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「なっ、何で俺がそんなのに付き合わなきゃならねぇんだよ? お前が行け」
「だーかーらー、女の子は2人だろ? 父竜が出てきたら、オレ一人じゃ守るなんてムリだから」
「だったら、他の奴に言え」
「だって、残ってる戦闘タイプ、オレらと葵だけだぞ」
「は?」
寛也は部屋にこもっていたので、潤也達が出掛けたことは知らされていなかった。部屋の外の騒がしさも、実は気づいていなかったのだ。
露は彼らが出掛けた経緯をかい摘まんで説明した。
「葵はここを守ってなきゃならないからな。オレらしかいないわけ」
露の説明に、寛也は眉をしかめる。
潤也が寛也に黙って出掛けたのは、寛也を休ませてくれようとしたのだろう。昨夜から一睡もできないでいる寛也を。
しかし寛也が項垂れている間にも、周りは動いているのだ。父竜も、昨夜は3度も暴れたことになる。ぼやぼやしてはいられない。それなのに、そんな気分にもなれないのが実際だった。
「結崎も少し外へ出ろよ。お前にも色々あるだろうけどさ、まだ終わっちゃいないんだ」
露はそう力強く言う。
彼は何かにつけて寛也に絡んでくるが、それはすべて寛也のことを思ってのことなのだ。しかし、それが分かっていながらも、寛也は素直にうなずけない。
そんな寛也に、露は大きくため息をつく。
「凪も大変だよな、お前、育てんの」
そう言って立ち上がり、寛也を見下ろす。
「いいよ。オレ一人で二人分の面倒をみるから。ま、女の子の扱いは慣れてるし」
勘に触るようなことを口走たのに、寛也が何も返してこないことに、更に言葉を続ける。
「お前さ、十分、杳の為に頑張ったと思うぞ。だから、後悔なんかしてんじゃないよ」
言われて、僅かに顔を上げる寛也。
「お前のそんな情けない顔、あいつも見たくないと思うし」
それだけ言って、露は部屋を出ようとする。が、その寸前にふと立ち止まる。それから何を思ったのか、辺りをキョロキョロ見回してから、首を傾げながら寛也を振り返って見た。
「お前、杳の物、何か持ってんのか?」
「え?」
何を言い出すのかと問い返そうとする前に、露は言い直す。
「悪い。勘違いみたいだ」
まだ少し不可解な顔をしたまま、ポツリと言って、露はそのまま部屋を出て行く。
「杳の気配、感じた気がしたんだけど…」
そんな些細な独り言は、言った本人も耳の端に聞いた者も、すぐに忘れることとなる。
* * *