第7章
崩れゆく砦
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浅葱に起こされて碧海が服に着替える間に、潤也達は出掛けてしまった。朝食は行く途中に、どこかのコンビニにでも寄って調達していくと言いながら。
「朝食と言うより、昼食に近いけどね」
苦笑しながら、浅葱は卵を割り入れたボールをかき回す。取り敢えず、誰でも大好物だろうと考えて、卵焼きから作ることにした。
遅れてやってきた美奈と百合子も加わって、台所は活気づく。
「で、結局、残っているのが…?」
手際よく野菜を切りながら、百合子が振り返ることなく聞く。答えるのは浅葱。
「翔くんと寛也さんと水穂くんと天野くん、それから僕ら。合計8人分を作らなくっちゃ」
「9人分いるんじゃないのか? 寛也さん、二人分くらい食べてるよ」
碧海が突っ込む。
「寛也くんに限らず、みんな良く食べるわよ。男子達は。私達より食が細かったのは杳くんくらいのものよ」
百合子の言葉に、一瞬みんなしんとする。それを打ち破ったのは、いつもと違って、できたてご飯でおにぎりを黙々と握っていた美奈だった。
「ねぇ、こんなの、信じられる訳ないじゃない」
「美奈ちゃん?」
心配そうに振り向く百合子に向けて。
「杳さん、死んじゃったなんて…粉々になって、身体ひとつも残らなかったなんて…弔ってあげることもできないなんて…」
じんわり浮かんでくる涙を、美奈は袖でゴシゴシ拭い去ろうとする。が、どうにも止まらなかった。
「何でこんな目に会わなくちゃいけないの? 可哀想よ。あんまりだわ」
「美奈ちゃん」
美奈に近づいて、百合子はその背をさする。その百合子に抱き着いて、美奈はとうとう、泣き出した。
碧海と浅葱は、それを見やってから顔を見合わせる。美奈の気持ちは痛いほどに分かる。自分達も同じなのだから。
そして、浅葱が穏やかに言う。
「少し、気分転換してくる? 美奈ちゃん、ずっと結界の中にこもりぱっなしだし」
ここへ来てそれ程に日にちが経っているわけでもない。しかし、一日中結界の中にいたのでは、気も滅入るだろう。先日買い出しに出掛けたが、碧海と百合子の二人で、美奈はここへ来て一歩も外へ出ていないのだった。
「あ、そうだ。今日、スーパーの特売日だって言ってたよな、お前」
思い出したように言って碧海は、浅葱をつつく。
「え?」
キョトンとする浅葱に目配せしながら。
「卵、お一人様1パック65円、1000円以上お買い上げの場合に限るって、言ってたじゃないか」
「あ、うん、そうだった…け?」
嘘のつけない浅葱の要領の悪さに呆れつつ、その浅葱に見切りをつける碧海。
「葵に、外に出してくれって頼んでやるよ。誰かボディガードつけてもらってさ」
碧海の言葉に、美奈は顔を上げずに少しだけうなずいた。
* * *