第7章
崩れゆく砦
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浅葱が目を覚ましたのは、部屋の外が何やら騒がしくなったからだった。
昨夜は眠れないだろうと思っていたのに、横になったらいつの間にか眠ってしまっていたらしかった。
碧海はまだ枕を抱え込んで眠っていたので、そのままにして静かに部屋を出た。廊下に出て、外がすっかり昼間になっていたのを知る。
そこで、潤也と出くわした。
「おはよう、浅葱」
急いでいたのだろうか、早足で廊下を歩いていたのに、浅葱の顔を見つけると、立ち止まって笑顔を向けてくる。
潤也のいつもと変わらないその様子に、強い人だと思った。浅葱は潤也が杳のことをずっと思っていたのを知っていた。
「おはようございます。すっかり寝坊してしまって、すみません」
「もう少し寝ていていいんだよ。昨夜は遅かったんだし」
「大丈夫です。それより、何かあったんですか?」
中庭の向こうにある広間の方に、みんなが集まっているのが見えた。よく見ると、深刻そうな顔をしている者もいた。
「うん、ちょっとね。夜のうちに敵が暴れたみたいだから、急遽その修復作業に行ってくることになったんだ」
「暴れたって…」
昨夜はこの近くで潤也達と一戦交えたと聞く。その直前には、東京でも寛也とやり合ったらしい。それなのに、父竜は同じ夜のうちに更にもう一カ所襲ったと言うのだろうか。
「心配しないで、君達はおとなしくしておいて。翔くんとヒロの二人が残るから、面倒をみてやってくれる?」
「あ…はい」
にっこりと笑顔さえも浮かべる潤也に、浅葱はほっとする。どんな深刻な事態になろうとも、きっとこの人の側にいれば安心していられるような気がした。
「じゃあ、碧海も起こして朝食でも作りますね。潤也さん、食べてから行かれますよね?」
「そうしたいのは山々なんだけどね」
潤也はちらりと広間の方を見る。
「すぐに出るんだ。新堂くんの実家の近くらしいから」
「え?」
驚く浅葱に潤也はその肩をぽんとたたく。
「大丈夫だよ。生きている人みんな助け出すから」
力強く言う潤也。しかし、その言葉のもうひとつの意味に気づいて、浅葱は目を伏せた。
死んでしまった人間は、もう助けられないのだと言う意味に。
* * *