第7章
崩れゆく砦
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「今宵は良い夜だった」
ソファに深く腰を降ろしてくつろぐ揚。しかし、その手は震えていた。
それが何によるものか知れなかったが、全知全能の彼を恐怖せしめるものがあるのかと、佐渡は訝しむ。
「何言ってやがる。弱い奴をいじめて喜んでるようじゃ、お前の器も知れたな」
精一杯の虚勢だと分かる佐渡の言葉に、揚は笑わずにはいられなかった。
その青雀としての力のすべてを奪い取ってやったのだ。何を言おうが、逆らえるものではない。
「殺してやったよ」
「え…?」
揚の言葉に、さすがの佐渡も顔色を変える。
「今、なんて…」
「杳くんを殺したと言ったんだよ。あみやと同じさ。もう、粉々になってしまったよ」
佐渡は一瞬、肩に力が入る。が、そのまま床にくず折れた。
「あいつは…結崎は守りきれなかったのかよ…」
「僕に敵う訳ないだろう。誰ひとりとしてね。君も、天人達も」
「くっそぉ…」
しかし、握り締める拳は、相手に繰り出されることはなかった。敵わないと、言われずとも身に染みて分かっている。その証拠に、折られた腕は治癒することなく肩に繋がったまま、力無く垂れ下がっていた。
それを見やっていた揚は、ふと、口元をほころばせる。
「生き返らせる方法は、ある」
思いがけない揚の言葉に、佐渡は顔を上げた。
「忘れたのかい、僕が何者であるかを。人の子ひとり生き返らせることなど造作も無い…とは言わないが、できないことはない。ただし、すべての封印が解けたらの話だがね」
佐渡は思わず揚の言葉に飛びつこうとするが、すぐに唇を噛み締めて目を逸らす。
「お前がそんなことを本気でするとは思わねぇよ」
かつて、裏切られたと呪った女が産んだ子である綺羅。それと同じ力を持って生まれた杳を、揚は同じように憎み、恨んだのだ。その相手を生き返らせることを、果たしてするものだろうか。否、とても考えられなかった。
「そう。君はそれを分かっている。しかし、杳くんを慕う、何も知らない子達はどうだろうか。例えば、そう。残る四つの勾玉を持つ巫女達は」
「お前…」
くつくつ笑う揚に、佐渡は何もできない自分を恨めしく思う。こんなものの力の一部だったことを、心底恥じながら。