第7章
崩れゆく砦
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「なぁ、起きてるか?」

 部屋の電気を消して随分時間が経った。

 横になれば眠れると思っていたのに、いつまでたっても目が冴えて仕方なかった。

 結界の中は夜のように暗くしてくれているが、外は既に朝なので、これは体内時計の影響かも知れない。そんなことを考えながら、碧海は隣の布団の中の浅葱に声をかけた。

 と、小さな声が返ってきた。

「起きてるよ」

 そのまま、起き上がる気配がした。浅葱もまた眠れなかったのだろう。

「眠ったら、今のこの現実が本当のことになってしうような気がして。起きていれば、いつかこの悪い夢から覚めるんじゃないかって思って」

 浅葱は自分達の中で一人、この地に止まっていた。結崎家にやっかいになっていたので、彼らと同級生だった杳とも交流が深かったことだろう。自分よりもショックは大きいかも知れない。

「そうだな、信じられないよ。杳さんの悪い冗談で、オレ達を驚かせてやろうなんて思ってんじゃないかって…」

 言いながら、杳はこんなたちの悪い冗談なんて言わないだろうと思い直して、悲しくなる。

「これからどうする?」

 改めて聞いてみる。

 自分達の中心だった杳がいなくなって、竜達はどうするだろうか。人類平和の為に、父竜と戦ってくれるのだろうか。一番に守りたかったものを失ってしまったのに。

 そんな義務はないと、かつて言われたことを思い出す。

「それでも、残った四つの勾玉は今でも生きている。これがある限り、僕達の使命は消えないんだ」

 浅葱の手に握られていた勾玉が、暗闇の中でほんのりと赤く色づく。見やると、自分の荷物の中に入れたままにしていた勾玉も、浅葱の勾玉に呼応するかのように、柔らかな光を放ち始めた。

「まだ、終わってない。逃げる訳にはいかないよ」

 常に優しげにしゃべる浅葱の、いつにない強い口調に碧海も思わず起き上がった。

「そうだな。勾玉、死守しなきゃな」

 そう返事をすると、浅葱のホッとするような気配がした。浅葱こそ、自分のこの答えを待っていたのだろうと思った。


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