第7章
崩れゆく砦
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「ちょっと待ってよ、ヒロ」
潤也が速足で引き上げる寛也に追いついた時には、彼の自室の前まで来ていた。その肩に手を置くと、ひどく気落ちしたままの肩が、その体格に似合わず、頼りなく思えた。
「ね、今日は一緒に寝ようよ。昔みたいに」
潤也の言葉に、むっつりしたままだった寛也は、驚いたように振り返る。その寛也を茶化すように言う潤也。
「あー、嫌なんだ? 前はよく、おねしょしたからって僕の布団の中に逃げ込んできたくせに」
「お前、いつの話してんだよ?」
「小学校3年生くらいの頃かな」
「3つの頃だっ」
「そうだっけ?」
憮然とする寛也は、にやにや笑う潤也に乗せられたと気づき、舌打ちして顔を背ける。
「今はお前とふざけてる気分じゃねぇんだ」
「知ってるよ」
「だったら一人にさせろ。一人で考えたいんだ」
「ダメだよ」
「お前なぁ」
怒ろうとする寛也の顔面に、潤也は手のひらを押し付けて黙らせる。
「杳は僕にとっても大切な人だったんだ」
そう言うと、寛也は表情を和らげた。自分の気持ちを利用したくはなかったが、それよりも寛也を一人にしておけない気がしたのだ。
寛也はそんな潤也の気持ちが分かるのか、小さく舌打ちだけして了承する。
「仕方ねぇな。布団は自分のを持って来いよ」
「うん。持ってこなくても、もう…」
言いながら、潤也は寛也の部屋の障子を開けてみる。いつの間にか、そこにちゃんと布団が二組敷かれていた。
呆れる寛也。そう言えば、今この結界を守っているのは紗和だろうが、元々潤也が作ったものなのだから、中の空間はまだ自由に扱うことができるのだろう。
「用意がいいな」
「まあね」
明るく答えて、潤也は寛也よりも先に部屋へ入った。