第7章
崩れゆく砦
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「美奈」
呼ばれて、それでも泣くまいと口を真一文字に結んで聖輝を睨む美奈。
しかし、その美奈はすぐに、座した机の上に顔を伏せた。ゴツンと大きな音を立てて額を机にぶつけたが、「痛い」と口走ることもなく、そのまま動かなくなった。
「美奈ちゃん?」
隣に座っていた百合子が驚いて肩を揺すると、美奈は既にすやすやと寝息をたてていた。聖輝が術を使って眠らせたのだと、百合子は気づいて容赦ない彼を見やる。
「他にも眠れない奴がいるなら言え。一瞬で眠らせてやるぞ」
そう言って聖輝が目を向けた先は碧海だった。碧海は聖輝と目が合うと、ぷるぷると小刻みに首を振って拒絶した。
「寝ます、寝ます。とっとと寝ます。おい、杉浦」
碧海は側にいた浅葱を振り返って声をかけると、浅葱もうなずいた。
「お先にすみません」
少し頭を下げてそう言ってから、そそくさと立ち去ろうとする碧海と一緒に立ち上がった。
眠ってしまった美奈を聖輝が軽々と担ぎ上げて、百合子を見やる。
「美奈と同室だったな? お前も来い」
聖輝の言葉に百合子はムッとするものの、その表情に気づいた碧海が押さえて押さえてとジェスチャーを送るのが目に入って、諦めたように返す。
「美奈ちゃんを寝かせたら、とっとと出て行ってよね。私達の部屋、本当は男子禁制なんだから」
「誰が襲うか」
呟くように言って、聖輝は先に部屋を出た。慌てて追いかける三人も部屋を出ていった。
そんな彼らを見送って、残る者達もとりあえずそれぞれ自室に戻ることになった。
「あ、翔くん」
最後に立ち上がる翔に、紗和が声をかける。
「本当に眠れないようなら、あの子と同じように術をかけてあげるよ。大丈夫?」
紗和の言葉に翔は首を振って、短く答えた。
「大丈夫です」
「でも凪は、怒らせると本気で怖いよ」
「知ってます」
翔のことを自分達の大将だと祭り上げる潤也こそが、本当は全体を仕切っているに等しい。
昔からそうだったから。
「じゃあ、寝られるね」
「新堂さんも休んでください。父竜も戦の暴走に手を焼いて逃げ出したくらいですから、そうそうやっては来ないでしょうから」
淡々と言って、翔は紗和に背を向けた。そんなことを言っても紗和は多分、床に就くことはしないと思いながら。
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