第7章
崩れゆく砦
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 長かった夜が明ける頃に、翔達は結界の門を潜った。誰も皆、寝静まっているだろうと思っていたが、全員が眠い目を擦りながらもずっと起きていたらしかった。

「そう…ですか…」

 ようやくに、それだけ答えられたのは浅葱だけだった。

 翔達の持ち帰った話は、どれも敗北ばかりで、彼らを気落ちさせるには十分な内容だった。何よりも、翔を始めとした竜神達が敗れたことはもとより、杳を失ったことが大半の者にとっては一番深い痛手となった。

「とにかく今は休め。結界はもうしばらく俺が番をしていてやる」

 帰ってきた者達に向けて優がそう言うのに、紗和は笑って答える。

「大丈夫だよ。結界は僕が守るから、君達こそ休んだ方がいいよ。女の子達も」

 疲れた様子も見せずにそう言って、元気のない様子の美奈達を見る。実際、紗和は殆ど力を使っていなかったので疲労も少ないと感じていた。

「みんなも、ちゃんと寝て起きてから、しっかりした頭でこれからのことを考えよう。勾玉はまだ全て失われた訳じゃないからね」

 誰も、何も口を挟む気が起きないのか、紗和の言葉に返事はなかった。

 しんとした中、寛也が黙って立ち上がった。

「ヒロ…?」

 潤也が呼び止めるが、寛也は片手だけ挙げて背を向けた。そのまま出て行く寛也を追うように立ち上がる潤也。

「新堂くん、後は頼んだよ。翔くんも…」

 ちらりと翔を見て、黙って俯いている彼と寛也の背とを一度だけ見比べてから。

「ちゃんと寝るんだよ。後で部屋へ様子を見に行くから、その時に寝てないとヒドイよ」
「な…!」

 子ども扱いの潤也に、思わず顔を上げる翔。その彼に笑って見せてから、潤也は寛也の後を追って広間を出て行った。

「元気な奴だな。アイツ、一番深手を負ってたぜ」

 呆れた様に言う露にも、答える者は誰もいなかった。そんな一同に、諦めたように露も腰を上げた。

「オレも何もしてないに等しいけど、明日の戦闘の為に休んでおくことにする。おまえらもボーッとした顔のままでいつまでも起きてるなよ」

 露の指さしたのは浅葱達だった。彼らこそ、何もしていないことを気にしているのではないかと思って。

「んじゃ、お先」

 殊更に明るい声を出してみるが、どこか空々しくて心地悪く、露はさっさと部屋を出て行った。

「そうだな。ここでくよくよ考えていても始まらん。解散だ。美奈、お前達も部屋へ戻れ」

 聖輝の言葉に、ぷくっと頬を膨らました顔を向ける美奈。

「済んだことを悔やんでも仕方ないだろう。寝ろ」

 命令口調の兄に、涙が出そうになる。それを我慢する代わりに、美奈は兄に食ってかかる。

「お兄ちゃんの冷徹漢ッ! こんなんで寝られる訳ないじゃない。杳さん、死んじゃったのよ」

 言葉にしたら、途端にポロポロと涙が出てきた。せっかく我慢しようと思っていたのにと、ゴシゴシと袖で涙を拭う。


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