第6章
君がために
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同時に、自分達を囲むようにバリアが張られるのが分かった。
その防御となる壁に、炎の塊がぶつけられる。防ぎきれなかった火の粉が、熱風に煽られて周囲に四散していく。それを、もう一度巨大な結界を張って、遊園地の敷地から外へ出ないように防いだ。
その一方で、今にも飛び立とうとする炎竜を、空気圧を使って地面に押さえ込んだ。
苦しそうにもがく炎竜を見下ろして呟く。
『とんでもない力だ…』
言って、ゆったりと身をひるがえした。
『新堂さんっ』
そこに、金の鱗を持つ地竜王がいた。
『翔くん、無事かい? 他のみんなは?』
炎が強過ぎてうまく気配が探れないのか、そう聞いてくる紗和に翔は答えようとして、目の前で炎が爆発するのを見る。
押さえつけていた紗和のバリアは跳ね飛ばされ、炎竜が身を震わせたかと思うと、幾つもの炎の塊を吐き出した。
咄嗟に張るバリアは巨竜二体を守る程で精一杯だった。背後に、命からがら逃げ込んでくる石竜をちらりと見やる紗和。
『彼だけか…』
『他は炎竜に飲み込まれました』
『…杳は?』
答えるまでもないだろうと、翔は返事を返す代わりに言う。
『早くしないと、炎竜に取り込まれている二人が危険です』
『そうだね…』
のんびりと話す間にも、炎はまだまだ大きくなっていく。一体、どれ程強大になるのだろうか。そもそも、この力の源は何だと言うのだろうか。
『父竜の結界すら打ち破る力です。僕達も下手に近づくと…』
『それなら』
ズズズと、地上から地響きが聞こえたかと思うと、今にも飛び立とうとしていた炎竜は押し付けられるように地面に倒れ臥した。その身に、土の山が大量に覆いかぶさる。が、水を吸った筈の土も業火の下に赤く溶け始める。させじと紗和は炎竜の周りの重力を重くする。
動けずに、炎竜は天上へ向けて苦しそうな声を上げる。それは、ひどく悲愴感を漂わせて、聞く者の心を締め付けた。
どれ程寛也が杳のことを思っていたのか。それは、思いが通じていただけに、悲しみはより一層大きいのだろう。
苦い思いを押し殺して、翔は地竜王の張ったバリアの外へ飛び出した。