第6章
君がために
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 気配を常に追っていた。父竜と戦っている時にも、その愛しい人の気を。

 それが、ひとたびの強い輝きを放ったと思うと、次の瞬間には、それはもうどこにも感じられなくなっていた。

 翔は燃え上がる炎の竜を見上げて、何が起きたのかを思い知った。

「杳…」

 愛しい人がもうどこにも存在していないことに、ガックリと膝折れてその場にひざまずく。

 三度失った魂に、竜気すらも抜け落ちてしまいそうだった。

「…っと、いたいた。竜王っ」

 ふと、聞き覚えのある声に呼ばれた。すぐに露だと知るが、翔は顔を上げる気力もなかった。

「何、こんな所で項垂れてんだ。結崎のバカを止めるの、手伝え」

 守らなければならない者を守りきれなかったのに、今更何をする必要があろうか。もう長くは生きられないと分かっていても、それでも守らなければならなかったのに。それができなかった自分にも、寛也にも、もう生きている意味などないように思えた。

 俯いたまま動かない翔に、露は業を煮やす。

「このままだと、この町ひとつ焼き尽くしてしまうぞ、あのバカは。もうオレ達だけじゃ、どうにもならないんだ。お前の力が必要なんだ。立てよ」

 言いながら、翔の腕を掴んで何とか立ち上がらせる。

「しっかりしろ、天人。綺羅も戦もオレ達の兄弟なんだぞ。同じくらい、なくしちゃいけないものなんだろ?」

 翔は首を振る。

「もう、僕はこれ以上…」
「ばっかやろーっ」

 露は、思わず拳が出てしまう。普段は人に手を上げることなどしないのに。

「ここは杳の生まれ育った町だろ? いいのかよ、ぶっ壊しても」

 言われて、僅かに顔を上げる。

「お前、杳の守りたかったもの、みんな壊していいのか? この町も、この景色も」

 海沿いの小さな都市。海岸線に迫る小高い山々と、遠く見渡せる美しい瀬戸内の青い海。眼下には、夏に遊びに来た海水浴場が見える。

 ぎゅっと握り締めた拳。

 届かなかった思い。

 しかし、だからこそ、杳の気持ちを守らなければならない。そう、気づいた。

「杳はお前のこと、信じてたんだろ? 絶対に勝つって。だったら、逃げるなよ」

 翔はようやくに顔を上げる。


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