第6章
君がために
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『これ程の力を持っていたとは…』
呟くような声に振り返る。そこに、巨竜を見る。彼もまた、炎に近づけないでいる様子だった。
『どちらにしても、やっかいな奴だ。これで成竜になったばかりとはな』
潤也はハッとする。
寛也のこの力は、混乱して暴走しただけだと思っていたのだが、元々それだけの物を持っていなければ生じない炎なのだ。しかも、際限なく巨大化していくように思われる。
自分よりまだまだ小さい炎竜の体格を思い出して、もしかしたらこの目の前の敵に寛也ならば勝てるかも知れないと思った。
もし、それを寛也がコントロールすることができれば。
その潤也の気持ちを読み取ったかのように、揚の声が伝わってきた。
『しかし、急激な成長は精神をむしばむ。このまま、戦は燃え尽きるだろう』
言うと、巨体をうねらせ、背を向ける。
『逃げる気?』
尋ねる潤也に、僅かに目を向ける。
『今夜の目的は達せられた。帰って休むとするよ』
『今夜の目的?』
『杳くんだよ。もうこの世にはいない筈』
『!?』
身が震えた。怒りが、風を舞い踊らせる。
途端、結界が解かれるのを感じたかと思うと、父竜の姿は闇の中へと消えうせていた。
『しまった…』
結界が解かれると同時に流れ込んできた酸素を含む空気に、炎が一層激しさを増した。その炎の中へと、潤也は成すすべもなく飲み込まれていった。
* * *