第6章
君がために
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目の前の父竜に向けて、激しい炎を吐き出す炎竜。
それをバリアで跳ね返して、巨竜が吠える。
その身は既にあちこち鱗を黒く焦がしていて、炎竜に手を焼いている様子が伺えた。
その炎竜に近づくことは父竜であってもこれ程の痛手なのだから、自分ではどれ程のダメージを被るのか想像にたやすかった。しかし潤也は構わず炎竜の前へ出る。
『ヒロ、やめるんだ、ヒロッ』
風の鎧を身にまとい、できる限りの防御をしたが、父竜の鱗さえも焦がす激しい炎は防ぎようもなかった。
竜身がジリジリと焼けていく痛みに、気が遠くなりそうだった。
『オレがやってみようか?』
石竜は言うが早いか、炎竜を取り囲むように黒い石の固まりを大量に出現させた。それが幾つも炎竜の周囲を覆いつくしたかと思ったら、一気に収縮して、その中へ炎竜を閉じ込めた。
巨大な石の固まりが出来上がると、周囲の水道管が破裂する。
上空へ吹き上がる水柱が石竜の作り出した巨石にぶつかり、すぐに水蒸気と化していく。原始的な方法だが、直接炎竜の炎に大量の水をかけると熱で大爆発しかねない。
これを根気よく続けていれば、いつか炎竜の炎が消えるものなのだろうか。否、内から出でる竜体の力は外からこれを押さえ込むには、それを上回る力でないとかなり困難だ。水ごときの温度では無理だろう。
ならばと、潤也は冷たい風を巻き起こす。酸素の分子の回転を変化させ、温度を極限まで下げていく。
凍りつく水が、黒い石の固まりに吸い付いていく。これで炎竜の熱も下がるだろうと安心した途端、炎竜を包み込んでいた石が砕け散った。
『うわああっ』
黒石とともに、石竜が弾き飛ばされた。
続いて吹き出した炎の渦に、慌てて水を散らせた水竜も身を引いたが、それを巻き込んで炎が尚一層膨らんでいった。
『そんな…』
潤也はもう一度風をまとおうとする。が、それすらも簡単に飲み込もうとする炎に引きずり込まれそうになる。それを何とか風圧で蹴散らして、怒鳴る。
『ヒロ、ヒロッ、聞こえないの!?』
念を送る。が、膨らんでいく炎の中心にいるだろう炎竜からの返答はなかった。