第6章
君がために
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「杳が、いない…」
「え?」
何のことかと見やってくる露。その横で、聖輝が眉をしかめる。気配のないことに気づいたのか、表情が険しくなった。
「って…じゃあ、オレ達何の為に…」
言いかけた露の背後に、炎の固まりが飛んで来た。
「水穂、よけろっ」
「え? おわあっ」
聖輝の声に振り向いて、露はとっさに炎を振り払う。が、その拍子に少し吹き飛ばされ、地面に転がった。
すぐに受け身を取り、立ち上がり様に叫ぶ。
「何しやがんだ、このバカ炎竜っ」
毒づいて見上げた天空に、火の粉どころか火山岩程の炎を吐き出す炎竜の姿があった。
増大していく力に、ミシミシ音を立てて結界がきしむのが分かった。
荒れ狂って周囲を気にせず暴れる姿にぞっとする。
やがてその向こうに、巨体な竜が姿を現わした。父竜である。
「出やがった…」
呟く露は、もうその手に竜玉を握っていた。
「いい機会だ。炎竜のあの力を利用して撃退させてもらおう」
そう言った聖輝の手にも青玉が現れた。来たばかりでやる気満々の二人に、潤也はハッとして顔をあげる。
「駄目だ。ヒロを止めなきゃ」
前後を無くして暴れる様は、かつての地竜王を思い起こさせた。いや、むしろこの炎竜の方が攻撃性に富んでいる分、始末が悪い。
見上げた上空で、炎竜の振り払った尾が父竜の鱗を焦がしているのが見えた。
どれだけの力を放出し続けていると言うのだろうか。あれを早く止めなければ、寛也は精神力も肉体も燃やし尽くしてしまうだろう。
潤也は取り出した白珠を握り締めて、ぐっと気持ちを押さえ込む。
今すべきことは、悲しむことではない。
潤也は天を仰いで、再び竜身を呼び出した。
天上へと翔けあがる風竜。白い気流が暗い夜空に輝く。その後を二体の竜も続いた。
* * *