第6章
君がために
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地響きとともに吹き上がった炎の柱に振り返って、潤也は息を飲む。今まで感じたことのない程の気の力が、そこにあった。
しかし、それは良く見知った者のものであると、すぐに認識する。
「ヒロ…?」
寛也の力とはとても思われない程にその気は増幅していた。
見る間に、炎の柱は天上の結界――普通は目に見えないものであるが――すらあっと言う間に黒く焦がしていった。
その炎の中から、咆哮を上げて姿を現すもの。
肥大化した炎竜だった。
「炎竜…信じられない…」
それは、寛也のいつもの転身とはひどく掛け離れた、怒りだけを燃え上がらせたかのような炎を身から吹き出していた。
その炎の勢いの為か、身体の大きさも一気に膨らみ、竜王を凌ぐ程にも思われた。元来炎竜は、自分達の中でも最も小柄な竜であったのに。
潤也は炎竜から目が逸らせなかった。
チリチリと皮膚が焼けるような感覚すら気づかなかった。
寛也に一体、何があったと言うのだろうか。
竜体は、それぞれの精神に影響を受ける。炎竜が成竜になった時もそうだったように、何らかの精神的な刺激を受けることによって成長していく。しかし、今までの他の竜達の成長を見ても、これ程に急激な変化が起きることなど考えられなかった。
寛也がそれ程にも大きく影響を受けることがあるとしたら、今、この場で考えられる事は――。
「杳…?」
気づいて、すぐに潤也は周囲に目を走らせる。
杳がいた場所は把握していた筈なのに、そこにいた筈の姿も、それどころか気配さえも見当たらなかった。
ズキンと心臓を貫くもの。
そんなことなど有り得ないと言う思いの側から、現実として荒れ狂う炎竜が視界を塞いでいく。
思わず潤也は身体の力が抜けて、その場へ跪く。
ずっとずっと大切に思っていたのだ。寛也のことを思うその心ごと、杳のことを思っていた。何よりも守りたかった存在――それが失われてしまったことに、潤也は一瞬で戦う意欲を失ってしまった。
「おおーいっ」
聞き覚えのある声がした。振り向く気力すらなかった。
「何があったんだ? あれ、炎竜?」
自分の前へと回り込み、炎竜を見上げる露と聖輝の姿が目の端に映る。
振り返ってくる露に、潤也はわずかにうなずいてみせてから、ポツリと言う。