第6章
君がために
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「な!?」

 つい今し方まで建物の陰に身を寄せて力無くうずくまっていた存在が、そこにあった。

「杳…っ」

 いつの間に、どうやって動いたのか。どこにそんな力があったものか。

 杳は、揚の光球を文字通り両手で受け止めていた。

 その身から、両手からわずかに発せられているかのように見える気の力――寛也にそれはまるで、自分達の持つ竜気のようにも見えて、神々しくさえもあった。

「馬鹿っ、何やってんだっ!」

 寛也は鉄棒を掴んで、力を入れる。痛みなど感じていられなかった。

 揚の表情が、怒りを含む。

「虫けらがっ。砕け散るがいい」

 揚の光球の勢いが強まったように見えた。

「くっそーっ」

 寛也は足に突き刺さる鉄棒を一瞬にして超高温の炎で焼き尽くした。

 そしてすぐに立ち上がり、杳の前へ出ようと駆け出したその時。

「ヒロ…」

 小さな声が耳に届いた。

 それが、最後だった。

 そのまま、杳の身体は光球を支えきれずに身に浴びた。光球は杳の身体を溶かし、寛也の眼前で空気に消えていった。

「はる…か…」

 ピチャリと、寛也の頬に一滴の生暖かい血の固まりが飛び散るのを感じた。それが杳の温もりの最後だと知った。

 瞬間、全身が今まで感じたことがない程に熱くなった。

「う、あああああ――っ!」

 喉が裂ける程の叫び声が、炎と一緒に吹き上がる。

 身に起こる炎の熱よりも、もっとずっと熱く燃え上がる心の内。心臓が破裂しそうな気がした。

 そのまま、身に起こったことに寛也は歯止めが効かなくなった。


   * * *



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