第6章
君がために
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「いててて…」
潤也の作った風に少し吹き飛ばされて、寛也はコロコロと転がって建物の壁にぶつかった。
竜体で天から落とされて、そのまま人間体に戻ってしまった為、強かに背を打ちつけてしまった。思わず少々のた打ち回る。
と、その目に杳の姿が映った。
戦っている間に、すぐ近くまで来ていたのだと知って寒気がする。このままではまた巻き込んでしまうのではないかと、寛也は痛む身体を叱咤して立ち上がり、杳の元へ駆け寄った。
「杳、大丈夫か?」
倒れるように壁にもたれ掛かったままの身体を抱き起こして、その顔を覗き込む。
月明かりにぞっとする程の青白い顔をしたまま、小さく早い呼吸を繰り返していた。が、寛也の声に気づくと、僅かに瞼を開く。
「ヒロ…?」
「こんな所じゃダメだ。もっと安全な所へ…」
そう言いかけた時、寛也の耳に大きな地響きとともに轟音が聞こえた。
とっさに見上げた上空には、父竜の姿しかなかった。とって返して、音のした方向を見やると、遊園地の遊具を押し潰すようにして地に倒れる銀色の巨竜の姿があった。
天の竜王が天から落とされたのだ。
自分達の対峙している相手がどれ程の力を持つか思い知って、背筋が寒くなった。
見る間に、稲妻の雨が、竜王の上へ容赦なく振り落とされる。
「あのヤロー」
竜王が簡単にやられるのを見て、明かに自分では歯が立たないと頭で理解できる。もう、逃げるより他に道はないのだと、寛也は悔しい思いで杳を抱き上げた。
正にその時。
「どこへも逃げられないと言っただろう」
背後から声がした。揚だった。
つい一瞬前まで上空で巨体を晒していたものが、人間体に戻って、いつの間に場所を移したのだろうか。
寛也は舌打ちして、再び杳を地面に降ろした。
「このバケモノが…」
人間体である揚に、寛也は巨大な影を見る。
絶対、勝てない。
分かってはいるが、負ける訳にはいかないのだった。何としても食い止めなければならない。
寛也は再び身に炎をたぎらせる。
この力の尽きるまで、杳は絶対に守ると決意して、相手を睨んだ。