第6章
君がために
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 紗和の結界――目に見える筈のないものが父竜の結界とぶつかって、その部分だけぽっかりと穴が開いた。

「今のうちだ」

 紗和に言われた通り、聖輝が紗和の結界を経由して、父竜の結界へと飛び込んだ。それを慌てて追いかける露は、転がるようにしながら結界を渡った。そして紗和を振り向く。

「お前も来い」

 しかし紗和は首を振る。

「僕は行けない。みんなを頼むよ」

 それだけ言って、紗和の結界が消えたのを見た。その向こうで跪く紗和。僅かな時間であったのに、どれ程の力を消耗しなければならなかったのか。

「おい、新堂っ」
「待て」

 結界に近づこうとする露の腕を捕らえる聖輝。

「結界内で他の結界を張る術者は、自らの結界内で分解されるんだ。あいつにはここへ来るすべがない」

 自分達を通り抜けさせることで精一杯だったのだろう。かなり体力を消耗しているように見えた。

「ごめん。僕はここにいる。逃げ道だけは確保できるようにしておくよ」
「都合のいいことを」

 露は、また舌打つ。

「父竜ぶっ飛ばして結界を消してやる。そうしたら、すぐに来いよ」

 そして、露は紗和の返事を聞く間もなく駆け出した。

 聖輝は一度だけ紗和を振り返ってから、そのまま何も言わずに露の後を追っていった。

 すぐに二人の姿は遊園地の建物の陰に消えていく。

 紗和は一人になって、自分の手のひらを見やり、呟いた。

「守りで敵わないんだ。彼らが全力を出しても、多分…」

 その時、紗和の目に竜が天へ舞い上がるのが見えた。自分の対となる銀色の竜と、白竜と赤竜。対峙する巨竜との力の差は歴然だった。

 思わず目を逸らしたくなる気もちを振り払って、紗和はただ、闇夜を見上げた。


   * * *



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