第6章
君がために
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 まるで巨大な渦のようだった。台風の渦巻く雲があるかのように、それは暗闇に浮かんでいた。

 近づいてみて、そこが閉ざされた空間だと気づいた。

「やっぱ、来たんだ?」

 遊園地らしきその入り口で立ち往生していた露が、紗和に気づいて白い歯を見せた。その向こうで聖輝が眉をしかめて闇の中を睨んでいた。

「どうなったの? 父竜はこの中に?」

 明かに感じる、自分達とは桁違いの竜気――父竜はここにいるのだ。

「天竜王達もこの中だ」

 壁のような結界に手が触れただけで、電流のようなものが流れた。他に入り口も見当たらないようであるし、この中へ入るのは至難の業のように思えた。

「竜体になっても、ここは突破できそうもないな」

 聖輝が赤く焼け焦げた拳を握り締めて言う。中へ入ろうとしてみたのだろう。が、その側から、傷は治癒していくのだが。

 きっと無理やり入ろうとすると、身を切り裂かれかねない。いくら再生能力があっても、術に長けた身ではない自分達には限界がある。結界をくぐった時点で、来世までさようならになってしまうだろう。

 そう言って舌打ちする露。

 紗和はその二人にゆっくりとした口調で告げる。

「こじ開けて、みようか」
「できるのか?」

 露は驚いて聞いてから、相手が自分達よりもはるかに強者であったことを思い出す。

「やったことないけど、多分ね」

 おっとりした口調で短く言う紗和の身から、黄金色の竜気がかげろうのように立ちのぼる。それはゆったりとしたものだったが、すぐに激しさを増す。

 あっと言う間に、竜体にでもなったかのような気の強さを放つようになり、聖輝も露も思わず一歩後ずさる。

「どのくらい持つか分からないから、二人とも入り口が見えたらすぐに飛び込んで」

 それだけ言って、紗和は周囲に結界を張り巡らせる。それを父竜の作った結界へと擦り付けた。

 激しく火花が飛び散る。

 結界は磁気を含んでいる。父竜の結界を打ち破る力などないが、部分的なものであれば、その磁気を中和することくらいならできると踏んだ。


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