第6章
君がために
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「許さない…絶対に、貴方だけは許さない」
翔の身から銀色の気が立ちのぼる。それは怒りの色を含んで、月光にさえ陰を作った。
「ふふ…」
対照的に、揚は笑みを浮かべたままだった。が、怒りに震える翔に目を取られていて、彼は横合いから繰り出されてきた別の気に気づかなかった。まともに脇腹に攻撃を受けて――それすらも少しよろめいたくらいだったが――すぐにその方向へ目を向ける。
「仇は人間なんかじゃねぇじゃねぇか。こいつは、どうしようもねぇ下種野郎だ」
そこに、寛也が立っていた。
「手出しはしないでください」
「そんなこと、無理に決まってるだろ」
翔の背後からも声がした。振り返ると、既に回復しているのか、潤也が立ち上がっていた。足元が少しだけふらつく潤也を、心配そうにする翔に向けて檄を飛ばす。
「何て顔してるの、リーダー。指示を出して」
そう言われて翔は二人揃って逃げろと言いかけるが、その前に眼前に揚が出現した。彼の振り上げられた手が、翔に向けて落とされるのを、翔は咄嗟に剣で受け止める。
先程の攻撃からも感じられた揚の腕は、鋼鉄よりもさらに硬い竜剣ですら切り落とせないのだ。
「く…っ」
揚の腕を剣で支える翔であったが、僅かに翔の方が力負けしていた。その一方で揚はそれほど力を使っているようには見えず、二人の力の差を感じずにはいられなかった。
と、いきなり揚が身を後方へ引いた。はっとして見ると、その腕に炎がくすぶった跡があった。
「こんなバケモノ、サシで勝負したって敵う訳ねぇよな」
寛也が、不敵な笑みを浮かべながら言う。その後を受けるように、潤也が続けた。
「昔から、子どもは親に対して全員で立ち向かってもいいことになっているんだよ。全員いないのが残念だけどね」
潤也の身に、気が満ちてくる。先程受けた攻撃のダメージは既に全くない様子だった。翔はホッとして今度は寛也を見やると、彼は信頼しているのか、心配の色も浮かべずに揚を睨んでいた。
揚に気づかれないように、ちらりと一瞬だけ目を向けた先に杳の姿が見えた。夜風に当たらないようにと、近くの建物の陰に身を置いているのは、きっと寛也が運んだためだろう。その杳は、ぐったりしたままだった。
杳の身体の方も何とかしなければと思ったが、目の前にいるこの巨大な敵を倒さない限り誰も逃げ切れないのだ。覚悟を決めるしかなかった。
翔は、改めて揚を睨み据える。
「ここで決着をつけましょう。僕達が消えるか、あなたが滅びるか」
翔の言葉など戯言にしか聞こえないのか、揚は薄笑いを浮かべたまま、返す。
「いいだろう。まとめてかかってくるがいい」
言った途端、爆風とともに膨大な気が膨らんだ。
* * *