第6章
君がために
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 くつくつ笑って、揚は気を膨らませる。ぞっとする程のその気配に、寛也は翔の腕がわずかに震えるのを見た。翔ほどであっても、恐れを感じているのだと知った。

 かつて一度だけこの二人が向き合ったのを見た時は一瞬のことで、勝負の行方は分からなかった。それよりもずっと昔には、当時幼かった炎竜が二人の戦いを目にすることは殆どなかったものだった。

 翔は右手に気を集める。銀色の竜気は、やがて形を取り、銀色の剣へと姿を変えた。それを両手で握り締める。

 月光をキラリと反射して、天へ掲げられる痩身の剣。

「ヒロ兄、二人を頼みます」

 寛也を振り返らず、翔はそのまま揚に向かって地を蹴るようにして駆け出した。

 勢いよく切りかかる翔の銀剣を、揚は難無くかわす。

 翔はすぐさま横合いから水平に剣を振る。

 と、揚は身体を文壇される前にさらりと後方へ跳びすさり、追って足を踏み出す翔に向けて、瞬時に作り上げた光球を放った。

 翔は光球を銀剣で受け止めて、それを真っ二つに切り裂いた。

 二つに裂けた光球の間を駆け抜けて、翔が再び銀剣を振り下ろす。

 揚はそれをかわして、後方へと身をひるがえした。

 一瞬の間の二人の素早い動きに、逃げることも忘れて、寛也はつい呆然として見てしまっていた。

「ほお。単一剣の方が身軽で良さそうだね。小回りも効くようだ」

 上着に埃でもついたのか、軽くハンカチで払いながら、揚は独特の口調で聞いた。

「だが、もう一本はどこへやった?」
「あなたには関係ない」

 翔の感情を押さえた顔に、揚はニヤリと笑う。

「あの小娘にやったんだったか。竜王の宮の、何と言ったか…」
「!?」
「そう、あみや」

 目を見張る翔。

 竜王の持つもう一方の竜剣は、愛した少女の身を守る為にと身を裂くようにして自分から切り離し、念を込めて彼女に遣わしたものなのだ。それは、ひっそりと行った。それは、殆どの者が知らないことだったのだ。

 第一、あの時代のことを、何故この目の前の者が知り得たと言うのだろうか。永の年月、封じられていた身でありながら。

 翔の無表情が崩れるのを見て、揚は面白そうに笑いながら、誰もが驚愕するようなことを告げた。

「すぐに人を信用する馬鹿な娘だった。少し信心深い顔で近づけば、宮の奥まで上げてくれてね。楽しい夜だったよ。神聖な竜王の宮の巫女が汚されていくのを見るのは」
「な…」
「あれ程執心しておきながら、まるっきりの手付かずとは恐れ入った。彼女がどんなだったか、聞きたくはないかね? 柔らかい肉体だったよ。泣きながら彼女は僕の下で何度も…」
「やめろっ!」

 叫んで、翔は剣を振るう。が、揚はその剣を片腕で簡単に受け止めた。剣は鋼鉄にでも打ち付けたかのように弾かれた。

 睨む翔。


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