第6章
君がために
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潤也が危険なことは十分分かっているが、潤也自身も覚悟のうえなのだ。彼の、杳を助けたいと言う思いは寛也と同じだ。その為に助けにやって来たのだろう。潤也のその思いを踏みにじりたくはなかった。
それなのに杳は尚も言う。
「オレ…もうダメだから…」
この言葉に、寛也は胸に刃物を突き立てられたような気がした。
「潤也を、助けて…」
「ダメだっ」
しかし、寛也は走るのをやめなかった。
背中で、潤也の気が少しずつ小さくなっていくのを感じた。振り返って、今すぐにでも助けたいと思う気持ちを何とか振り払って走った。
ただ、ただ、杳を守りたい。その為に。
腕の中で震える存在を守る為に。
寛也は走って走って、ようやく遊園地の門が見える場所まで来た。
と、突然寛也の目の前に現れた者がいた。空気から溶け出すように姿を見せた存在――翔だった。
「杳兄さんっ」
翔は今の状態を一瞬で理解したのか、顔色を変える。彼は二人に掛け寄り様、寛也の手から杳を奪い取った。
寛也はこのまま翔に渡してしまうのは癪だったが、何よりも翔なら杳を連れて逃げのびることができると思った。
「杳を安全な所へ連れて行ってくれ」
言うと、翔に睨まれた。
「何言ってるんですか。誰がこんな危険な場所へ連れて来たと…」
「その話は後だ。杳を頼んだぞ。俺はジュンを助ける」
寛也はそう言って振り返り、元来た道を戻ろうとした。
その彼の目の前に再び現れる影。
「どこへ行く気だい?」
そこに、揚が立っていた。