第6章
君がために
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しかし、寛也のこの場に不似合いなふざけた台詞が、揚を怒らせるのは十分だった。
「ならば二度と出会えぬように、二人バラバラに消滅させてやろう。魂ごと吹き飛ぶがいい」
揚の手がゆっくりと上げられ、攻撃力を増した光球が寛也に向けられた。
口元に余裕の笑みを浮かべながらも、寛也は脂汗の出るのを止められなかった。しかし、逃げる訳にはいかない。
杳を守るのだ。
両足を踏ん張って、全身で、背後にいる杳を庇うように両手を広げた。
「いい覚悟だ、戦。このまま消えうせろ」
その言葉とともに、揚の竜気が放出される。
それに備えて寛也が身構えた時、一陣の風が吹き抜けた。
その風は、鋭い刃のように牙を剥いて、揚の手元に突き刺さり、その手を刻んでいく。
反射的に揚は光球を取り落としてしまった。それはすぐに風の中に消されてしまった。
「何!?」
揚は気配のした方向に目を向ける。そこに、たった今駆けつけたばかりなのだろう、息も荒いままで潤也が立っていた。
「凪か…。またやられに来たのか?」
昼間、大して攻撃を加える間もなく倒れた相手に、揚は見下した目を向ける。
その揚から目をそらすことなく、潤也は寛也に言う。
「杳を連れて逃げるんだ、ヒロ」
「ジュン…」
寛也はとっさに杳を抱き上げると、潤也に向かって声をかける。
「悪ィ、すぐに戻ってくる」
そして、そのまま駆け出した。
なるべく杳に振動を与えたくなかったが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
すぐに、背後から爆音が聞こえてきた。
どうなっているのか気になるものの、今は杳を安全な場所に連れて行くのが先だと思って、潤也のことを心配する気持ちに蓋をする。
その心情を知ってか、寛也の服をギュッと掴んでくる手。
「ヒロ…」
腕の中の人が、声にならない声で寛也を呼ぶ。
「潤也が…」
「分かってる」
短く答えるが、足を止めなかった。