第6章
君がために
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「安心したまえ。命だけは助けてやっている。僕としても、人としての命まで簡単に取ってしまいたくはなかったからね。それに、僕の分身であった彼には、最後まで生き延びて、君達や虫けらの末路を見届ける義務があると思わないかね?」
そう言った揚の目は、凍てつくような色をしていた。
母女に裏切られた彼が、自分を裏切った青雀にどんな仕打ちを与えたのか。与えるつもりなのか。
寛也は握りこぶしに力を込めた。
「てめぇって奴は、どうしようもねぇクズだよな」
身の内から自然と沸き起こってくる怒りが炎となり、寛也の身体を包んでいく。
「人を好きになるのが、そんなに悪いことか? 青雀がお前の一部だったって言うなら、杳にホレてる佐渡はおまえ自身じゃねぇのかよ?」
怒りを見せる寛也を面白いものでも見るように、揚は口元を歪ませて笑みを浮かべる。
「残念ながら、僕にはその気はない。青雀が生まれ変わって一個体として生活してきたんだ。僕には関係ないだろう」
「ざけんじゃねぇ!」
思わず怒鳴る声にも力が入る。
「だったら佐渡がお前に付こうが、こっちに付こうが、てめぇの口出しできることじゃねぇだろっ!」
「ああ…ぐだぐたうるさい」
吐き捨てるように言う揚。
寛也となど元々議論をすることなど考えていなかったのだろう。時間の無駄だと思ったのか、揚は会話を強制的に締めくくると、右手のひらに光を集め始めた。
ゆらゆらと立ちのぼり始める揚の竜気。
その視線の先が自分から少し逸れていることに気づいて、寛也は振り向く。
そこにあった、未だにベンチに座ったままの杳の姿にギョッとする。座っていると言うよりも、むしろうつ伏せていると言った方が正しい。寛也から逃げろと言われたのだが、その場にまともに座ってはいられなかったものだ。歩くことすらままならないのだろう。
寛也はすぐにでも杳に掛け寄りたかったが、その場から動けなかった。明らかに杳に向けられている光球から、杳を守らなければならないのだ。
膨大な力の攻撃を避けることは可能だろうが、受け止めてはじき返すことができるだうか。防御は不得意だと、自信を持って言える。それならば、杳を連れて逃げる方が良いのだろうか。否、逃げ切れるとはとても思えなかった。
「綺羅と同じ力を持って生まれてきたことを悔やむんだな」
そう言って揚は、右手を勢い良く正面に突き出した。途端、飛び出してきたのはテニスボールくらいの大きさの光。恐らく、この遊園地ごと吹き飛ばせるくらいの力はあると、寛也は瞬時に理解した。