第6章
君がために
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「杳くんを射止めるような奴が誰なのかを、一度見てみたいと思っていたのだがね」
フッと笑う声を挟んで揚は続ける。
「まさか戦とは思わなかったよ」
嫌みな口調が勘に触るが、それよりもと、寛也は腕に抱いていた杳を背に庇う。
「杳、逃げろ」
早口でそう言って、寛也は立ち上がった。
つと、睨み据える相手との圧倒的な力の差を感じた。どうしたことか、先程立ち向かった時以上に差を感じるのだった。
しかし、杳を背に庇うと、不思議とどこからか力が沸いてくるのを感じられた。
「せっかくのところ、邪魔して悪かったかな?」
「分かってんなら、とっとと失せろ」
飄々とした口調に、寛也は低く返す。
揚は寛也の言葉を無視して、逆に、ゆっくり近づいてきた。その口元に笑みを張り付けたまま。
「そうはいかない」
揚の右手に、光が集まってくる。それは暗闇の中で無気味な色を放ち始める。
寛也は攻撃の準備に、無意識に構える。
「危険な芽は早く摘み取っておくに越したことはない。杳くん、君はどうも周囲に悪い影響を与え過ぎるようだ。青雀まで落とすとはね」
「!?」
揚の言葉から、思い当たる節があり、寛也は驚いた表情を揚に向ける。
短時間での揚の力の増幅は、佐渡の力の分ではないだろうか。揚は佐渡の力を吸収したのだろう。元々が、青雀は自分の足を砕いて作られたものだ。元の父竜の身体に戻り、その分、揚の力も増したのだろう。
ならば、佐渡はどうなったのだろうか。
揚は寛也の表情に、少し呆れながら続ける。
「知らないとでも思っていたのかい? 朱雀が消息を絶ったこの地で、そこにいた筈の青雀が何も知らないと考える方が難しいだろう。ヤツは僕を裏切っていたんだよ。君達に加担してね」
「じゃあ…佐渡は…」
「両翼をもぎ取って、爪を砕いてやった。もう転身はできないだろう」
その言葉に愕然とする。
あの時、佐渡は寛也を庇うかのように父竜の前へ出た。その時点で、既に寛也を案内してきただろうことを感づかれていだのだろう。また、あの佐渡がそのことに気が付かなかったとも思えない。
分かっていて、彼は父竜の眼前に飛び出して行ったのだ。まさしく、寛也達を庇う為に。