第6章
君がために
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この温厚な、戦闘力ゼロにも等しい者の言葉に、紗和は自分を恥じずにはいられなかった。
怖いのは皆同じではない。多分、力のない分だけ、ここに残った者は怖い思いをしていることだろう。
紗和は不安そうな浅葱達の顔を見て、それから決意したように優を見やる。
「僕達が帰って来なかったら、君達は戦いを放棄するんだ」
「何を…」
反発しようとする優を制して、紗和は続ける。
「勾玉を持って、父竜の軍門に下るんだ。そうすれば、生き延びる道もある」
「安心させておいて、こっそり近づいて、もう一度勾玉で封じるのね」
元気良く言うのは美奈だった。いつの間にか戻ってきていて、兄を心配に思う気持ちを伏せて明るく言う。その内容は巫女にしては気持ちが良いくらいに好戦的だった。
そんな美奈に思わず苦笑する紗和。
「君達にはそんな力はないだろう? 杳の…綺羅の転生を待つ。何千年かかるか分からないけど」
それこそ神にでもすがるような紗和の言葉に、一同はため息をこぼす。
「その前に、人類滅亡させられるぞ。分かってるのか?」
呆れた表情を向ける優に、紗和は笑い返す。
「分かっている。だから、君達だけでも生き延びて、それまでの間、父竜をくい止めていて欲しい。僕達は戦う為に生まれてきた。だけど君達は違う。君達の力は人の心を動かすことができるものだから、きっとやれると思うよ」
「何でそう簡単に言うかなぁ」
舌打ちして優は、明後日の方向に目を向けて睨む。
「じゃ、頼んだよ」
言って紗和は重い腰を上げた。
父竜の恐ろしさを一番身に染みて知っているのは自分なのだ。その力の差も十分理解している。万に一つでも勝てるとは信じていなかった。
負け戦だと分かっているのだ。
それなのに、何故みんな立ち向かおうとするのだろうか。この力の無い者達までもが。
紗和はそれでも身を奮い立たせるしかなかった。