第6章
君がために
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「お前、行く気、なさそうだな?」
「え?」

 紗和はすっかり守りにつくつもりだったが、急に話を振られて、驚いた顔を向ける。それを見やって、聖輝はそっけなく背を向ける。

「放っておけ。先に行くぞ」

 彼はそのままさっさと部屋を出て行ってしまった。ここにいろと言われた美奈は、慌ててその後を追っていく。廊下へ出て、すぐに兄にエールを送っている美奈の声が聞こえてきた。

 それを耳にしながら、露は紗和に言う。

「責めるつもりはないけど、お前、いつだって戦うことから逃げてばっかじゃないか。本当は、守りの要の「守り」ってのは、後方の守りじゃなくて、前衛の守りなんじゃなかった? 戦うことしか知らずに突っ走る天竜王を守って、一緒に戦うのが地竜王の本来の役目だと、オレは昔聞かされたけど」

 誰から聞いたことなのかは、言いたくもないので口にしなかったが。

「まあ、今は赤の他人だし、昔とは考え方も変わってるだろうし。行きたくなけりゃ行かなくていいよ。その代わり、こいつら、絶対守りぬけよ。勾玉ぶっ壊したら許さないからな」

 そう言って露も背を向けた。

 部屋を出て行く後ろ姿に、紗和は顔を伏せる。

 分かっているのだ。父竜自身が戦いの場にいるのなら、大した守りの必要もなく、全力で立ち向かうべきなのだとは。しかし、それでもすくむ気持ちは如何ともできなかった。

 その紗和に声をかけるのが憚られるのか、殆どの者は押し黙ったままだった。その中で口を開いたのは優だった。たった今、露に足手まといだと言わんばかりの言葉を投げられた相手だ。

「お前が結界を強固にしておいてくれたら、俺達だけでもそれを維持することはできるぜ」

 言われて、紗和は顔を上げる。

「怖いのはみんな同じだ。水竜と石竜の二人はそれでも覚悟を決めて行ったんだ。天竜王達の勇み足は褒められたものじゃないが、こうなった以上、腹をくくるべきだと俺は思う。何より、地竜王、お前一人残っても父竜に勝てることは有り得ないんじゃないか? だったら、今立ち上がらずには未来はないだろう」

 自分もそんなことを言える程大した人間ではないがと、自嘲気味に付け加えて。

「どちらを選ぶも、おまえ自身だ。口出しできる立場じゃないかも知れないが、もしあいつら全員倒れたら、俺も戦うつもりでいる。ひとなぎで終わりだろうがな」
「その時には、僕も一緒に戦うよ」

 えくぼのある人懐っこい笑みを見せて、松葉もそう言った。


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