第6章
君がために
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「何だ、何だ、何事だぁ?」
眠い目をこすりながら最後に現れた露は、浅葱にたたき起こされて不機嫌そのものだった。その浅葱は全く悪びれた様子も見せず、先に広間の末席に座していた。
紗和はみんなの顔を見回して、広間に再び全員が揃ったのを確認してから、口を開いた。
「父竜が迫ってきている。出入り口を外界から切り離して、この空間を狭めて息をひそめようと思う。みんなしばらく不自由をすると思うけど、大人しくしておいてくれるね」
「父竜が来る」の言葉にざわつく一同。
「って、他の奴らは? 結崎兄弟や、あのチビ…」
その集まった中に寛也達のいないことに気づいて露がそう問うのに、紗和は我知らず腹部を押さえてしまう。そこは先程翔から攻撃を受けた所で、当然傷は治っているが、その痛みはまだ十分に思い出せた。
「戦と杳は結界を抜け出したんだよ。翔くんと凪はそれを追っていった。二人を守って、父竜を迎え撃つと言ってね」
「な…!」
さすがに絶句する露は、眠気がすっかり吹き飛んでしまっていた。
と、部屋の隅で聖輝が立ち上がった。
「瀬緒?」
「あいつらが負ければ、残った俺達に勝ち目はない。今全力でぶつかるか、いつか追い詰められて果てるかを選ぶなら、俺は前者だ」
「お兄ちゃんっ」
仲間の集まるこの場では、余り兄妹のようにふるまうことはなかった美奈が、半分だけ腰を浮かせて兄の方を見やった。
「お前はここにいろ。残った勾玉でどうこうできる相手じゃないが、むしろ微力でも封印が残っている方が、まだ勝機はある」
そう言って聖輝は部屋を出ようとする。
「あ、ちょっとちょっと」
軽い口調で声をかける露も、同じように立ち上がる。
「オレも行くよ。決戦なら全力が必要だろ?」
自分が行かずしてどうするとばかりに、露は軽く笑いながら言う。そして、ふと目の端に映る優の顔に向かって。
「お前らは残ってろよ。オレら、全力を出したいから」
「ひどい言い様だな」
言いながらも、優は仕方ないとばかりに肩をすくめる。力の差は歴然だったから。
それよりもと、露が目を移したのは紗和だった。