第6章
君がために
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が、翔は紗和には答えず、潤也を見やる。
「潤也さん、二人がどこへ行ったか知ってるんでしょ?」
「二人?」
首を傾げる紗和に、振り向かないままで続ける翔。
「杳兄さんとヒロ兄の二人が見当たらないんです。きっと結界の外へ出たんです」
「どうしてっ?」
紗和が驚いて潤也を見る。
「今、外で父竜とかち合ったら、二人とも生きて帰れないよ。急いで連れ戻そう」
そう言う紗和と翔から視線を逸らす潤也。
「どうしてこうも君たちはニブいのかな。最期くらい二人っきりにしてあげられないの?」
「最期って…?」
眉をしかめる紗和に答えず、潤也は続ける。
「父竜が来ると言うなら迎え撃つよ。僕一人でも。誰もあの二人の邪魔はさせない。君達は『次回』の戦いに備えて、ここに隠れているといい」
言って、潤也はたった今入って来たばかりの入り口へときびすを返す。慌てて翔はその前に回り込んだ。
「迎え撃つって、本気で言ってるんですか? 潤也さん、大怪我させられたの、今日の昼間のことですよ」
「昨日だよ。もう治ってる」
「でも、一人でなんて…」
潤也はするりと翔の脇を擦り抜けようとする。その腕を掴む翔。
「じゃあ、僕も行きます。潤也さん一人行かせることなんてできません。それに、杳兄さんを守るためなんです。その為だったら、僕は…」
「ちょっと待ってよ、二人とも」
紗和が、今にも飛び出して行きそうな二人を慌てて止める。
「今は戦いは避けるべきだよ。戦と杳を見つけて連れ戻そう。杳の身体のことなら、僕が何とかするから」
そう言った紗和は、潤也に睨まれる。紗和の方が一瞬怯むが、潤也はすぐに目を逸らす。
「後のことは君に任せるよ、地竜王」
「ちょっと、凪…っ」
それ以上何も言わず、翔の手を振り払って、そのまま潤也は出口に向かった。
潤也の後を追いかけようとして立ち止まり、翔はちらりと紗和を振り返る。
「僕達は行きます。杳兄さん、助けられないかも知れないけど、何もしないまま後悔するのなんて、もう二度と嫌ですから。父竜に一矢報いてやるくらいはしてきます」
「翔くんっ」
どう考えても、ここで翔を始め潤也と寛也を失ってしまうと言うことは、事実上の敗北を意味する。見逃す訳にはいかなかった。
紗和は、もっと冷静になれと言おうとする。が、翔の様子に動きを止めた。
翔は右手を上げて、手のひらを紗和に向ける。その手に、光球が握られていたのだった。
「ごめんなさい。しばらく邪魔をしないでください」
「何を…」
驚く紗和に向けて、翔は小さく稲光をまとったその光球を放った。
まともにそれを身に受けた紗和は、後方にあった障子や襖を幾つか貫いて吹き飛んだ。
それに目を向けることなく、翔はすぐさま潤也の後を追った。
きっとすぐに他の誰かが、今の物音に気づいてやって来ることだろう。放っておいても大丈夫だと思って。
案の定、まだ起きていたのか、部屋から飛び出して来た浅葱達の姿が、結界から出る寸前に目の端に映った。
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