第6章
君がために
-2-
7/11
歌竜である「河岸充」については、自宅のパソコンを使ってインターネットで検索した。ある程度の情報を手に入れてから、潤也は再び結界の入り口を潜った。
結界の中はしんとしていて、話し合いも早々に終わってみんな解散したのだろうと思った。廊下に人気もないところを見ると、もう寝ている者もいるだろう。
自分もそろそろ眠くなってきたので、自室に戻ろうかと思った途端、翔が目の前に現れた。瞬間移動だった。
明かに血相を変えたその様子に、杳と寛也のことがもうバレたと言うことが一瞬で理解できた。
「潤也さん、杳兄さんがいないんですが知りませんか?」
この難解な作りをした結界内の、部屋という部屋を捜し回ったのだろうことが伺えた。しかし、今更二人の邪魔をさせる訳にはいかないと、潤也はしらを切る。
「奥の杳の部屋じゃない? 静かな所で休んだ方がいいからね。ヒロの部屋じゃ、周りが賑やかだから」
杳の部屋は余り人がたどり着けないように、入り組んだ廊下の奥の方にしていた。いろいろな意味で、杳の身を守るためだった。その反面、寛也はいつでも動けるように、広間にも入り口にも近い所に部屋を置いていたのだった。
「いないんです。ヒロ兄の部屋にも、杳兄さんの部屋にも」
「じゃあトイレとか」
「捜しました。トイレもお風呂も、縁の下も」
潤也はこの翔の言葉に、内心でため息をつく。翔は知っていながら、どうしてこうも杳の気持ちを優先させることができないのだろうかと。
杳が思っている相手が寛也であることは、もう十分に分かっていることなのに。
「二人揃っていなくなったってことは、きっとヒロ兄が連れ出したんです。あんなに具合の悪い杳兄さんを、一体どこへ…」
この子どもじみた嫉妬心丸出しの竜王をどう諭してやろうかと思って、自分より少し低いその頭に手のひらを置いた。
その時。
「翔くんっ」
潤也の目の前に、翔が現れた時と同じように紗和が姿を現した。翔の気を捜して現れたのだろう。しかしそこに潤也もいることに気づいて声をかけてくる。
「凪もいたんだ? 丁度良かった」
先程の気まずい会話のことは、すっかり忘れているかのようだった。第一、その名で呼ぶなと言ったのに、全く聞き入れていない紗和に少し呆れつつ、潤也は落ち着いた口調で問う。
「君まで慌てて何事だよ。みんなもう寝てるんだから、少し静かに…」
「父竜が来るよ。もう、すぐそこまで気配が近づいて来ている。結界を固めて入り口を閉ざすから、みんなをもう一度集めて」
「!?」
紗和の言葉に、潤也と翔は同時に息を飲む。
「何で? だってヒロ達が戻ってきたのもついさっきのことだし、あっちも寝ずの戦いは不利だろ?」
「不利なのはこちらだって同じだよ。だから、とにかく今夜の所は身を潜めるんだ。どうもここが知られてやってくる訳じゃなさそうだし、やり過ごせるものならやり過ごそう。まともに作戦も何も立ててないし、本格的な戦いは、みんな無理だろうから」
潤也の問いに紗和はそう答えて、翔に目を向ける。
「翔くんもいいね?」