第6章
君がために
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 潤也も寛也もいなくなり、話し合いの場はどこかぎこちなくなった。間が持たなくなり、夜も遅いためか欠伸をする者も出てきた。

 結局、残りは明日にでもと、紗和が話を締めくくって解散になったのは、夜中の2時をとうに回っていた。

「何だか、ちょっと身体が冷えたね」

 部屋へ戻り、浅葱は身震いしながら言う。

 浅葱達4人に分け与えられている部屋は、竜王である翔の部屋の近くで、男女2人ずつの相部屋だった。部屋は必要以上にあるから個室も大丈夫だと潤也に言われたのだが、何となく心細いので自分達は相部屋を選んだ。

 浅葱は、碧海と一緒だった。

「んー。もう風呂は冷たくなってるだろうなぁ、きっと。暖かくして早く寝た方が得策かもな」

 そう答える碧海は、手早く荒く布団を敷くと、あっと言う間にその中に潜り込んだ。欠伸大将は彼だった。

「じゃあ、電気消すよ」

 結界内の電気系統が一体どういう仕組みなっているのか分からなかったが、壁のスイッチを切れば、部屋の電灯もきちんと消える仕組みになっていた。潤也は、細部にまで過ごしやすく作ってくれているようだった。

 真っ暗になった部屋で、浅葱もひんやりとした布団に潜り込む。

 と、碧海が声をかけてきた。

「オレ、もうどこから突っ込んで良いのか分からなくなったんだけど」

 大人しく竜達の話を聞いていたが、寝耳に水な内容ばかりだった。

 杳があみやであることを知らないと思われていた翔達はとうに知っている様子だったし、それが竜達の末妹である綺羅の生まれ変わりだったことなど聞いたこともなかった。

 浅葱は潤也達と半年も一緒に暮らしていたと言うのに、ずっと秘密にされていたのだった。それだけ杳のことが大切だったのだろうとは理解できるが、何だか自分だけのけ者にされていたみたいで、少し寂しかった。

 それに加えて、あの杳の衰弱した様子に、今まで気づかなかった自分に腹が立った。

 思い返せば、思い至ることは多い。

 部活から帰ってくると、アパートによくよく杳がいることが多く、そんな時は大概、寛也も遊びに出ることもなく部屋にいるのだった。一緒にゲームでもして遊んでいるのだろうと潤也も言っていたのでそう信じていたのだが、それが杳の命を長らえさせる為の治癒を行っていたのだと、今では思われるのだった。

 その杳の命ももう尽きるのだと諦めたような翔に、胸が詰まる思いだった。

「杳さん、竜だったら良かったのに」

 碧海が呟く。

「そうしたら、潤也さんみたいに大怪我してもすぐに治るし。それに杳さんが…綺羅が竜だったら、こんな無益な戦いも終わるだろ?」
「そうだね…」

 それはまるで、一粒の希望のような願いだった。

 が、本当はもっと大切なことが忘れられているのではないかと浅葱は思った。肝心なのはそんな事実などではないのではないか。

 よしんば杳が竜だったとしても、父竜がその事実を知ったからと言って、戦いが終わったと言って、今更何になると言うのだろうか。その昔に失ったものを取り戻せることが有り得るのだろうか。

 自分達には到底知り得ることのない過去に思いを馳せながら、浅葱は目を閉じる。

 とその時、部屋の外で聞こえる物音を耳にした。

 何事かと耳を澄ました浅葱に、廊下から盛大な衝突音が聞こえた。


   * * *



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