第6章
君がために
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「君がヒロに出会う前に告白しておけば良かったかなぁ」
そうしたら杳は自分のものになっただろうか。
「それでもきっと、君はヒロに恋をするんだ」
ずっとずっと昔からそうだったように。
自分の気持ちが変わらないのと同じように、この小さな魂が求める者はいつも同じだった。それは、誰にも変えることはできないものだから。
「僕は君が生まれてきてくれたことを感謝している。たとえ思いが繋がらなくても、僕達と同じ時代に生きてくれて、泣いたり笑ったり怒ったりして、一緒にいられることが嬉しいよ。だから、これから先も君がたとえ誰を思っていても、僕の気持ちは揺るがない」
俯いたままの杳の頬に手を添えて、そっと上を向かせる。
「好きだよ、杳」
ゆっくりとそう言って、その額に口づける。
見上げてくる杳の瞳が少し潤んでいた。
途端、潤也は横合いから熱風に煽られた。
寛也だった。
『準備できたぞ。早く杳をよこせ』
粗い口調に、潤也は苦笑しながら、先日自分が言われた言葉をさらりと返した。
「男の嫉妬なんてみっともないよ、ヒロ」
『おま…』
熱風が僅かに温度を増す。杳が側にいるので、炎を吐き出すなどの手荒な真似はできないだろうが、余り苛めても仕方ないと、潤也は杳の手を取る。
「覚えておいて、杳。僕はいつまでも君の味方だから。僕達は君の為にここにいる。だから、必ず帰っておいで。待ってるから、ずっと」
潤也の手を伝って、風の羽毛が杳の身体をふんわりと包み込む。切なく揺れる杳の瞳ごとくるんで、それを炎竜の足元へ連れていく。
「落とさないでよ、ヒロ」
紗和のような巨大な玉を作ることはできないが、冷たい風から杳を守ることはできると、潤也が作り出したのは風のシールドだった。丁度、炎竜の前足に収まる大きさに作り上げた。それをしっかり掴む炎竜。
安心したような瞳の杳に、潤也は切なくなる気持ちを振り払って。
「楽しんでおいで」
笑顔を向けた。
やがて天高く駆け上がる赤い竜。星空に映るその姿を、潤也はいつまでも見送っていた。
* * *