第6章
君がために
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「…どこへ行く気なの?」
寛也に視線を移して、今度は落ち着いた口調で聞いた。
「どこって…こいつ、遊園地に行きたいって言うから…」
「遊園地…?」
どうして今頃そんな所へと聞く代わりに、潤也は大きくため息をついて、思い浮かぶ場所を告げる。
「だったらファミリーランドへでも連れて行ってあげなよ。あ、今は名前が変わってたっけ」
ここからなら一番近いからと付け加える潤也に、寛也は何の疑いも持たずにうなずく。
この時間ではどこへ行こうとも営業している訳がないのだから、それくらいなら杳の身体の負担にならないように、近い場所が良いだろうと思って。
「外、寒いからね」
なるべく優しい声でそう言って、潤也は自分の着ていたブルゾンを杳の肩にかけてやる。僅かに開かれ、見上げてくる瞳に、笑みを向けて。
「翔くんは僕が引き留めておいてあげる。邪魔をしないようにね」
「ジュン、お前…」
寛也に言った訳でもないのに、嬉しそうにする寛也。癪に障ったので、その鼻を摘まんでやる。
「早くして。他にもライバルは多いんだからね」
本当に、困ったものだと呟いて。
* * *
竜体になる寛也を待つ間、潤也はアパートの階段に杳を座らせた。
杳は一人で身体を起こしていることもできないようなので、潤也がその身を支えながら、炎の竜が天から舞い降りて来るのを待った。
その潤也の耳に、囁くような声が届く。
「ごめんね、潤也…」
何の事かと見やると、杳が潤也にもたれたまま、肩で息をしていた。
「潤也の気持ち、知ってたのに、応えてあげられなくて。それなのに、ずっと甘えてた…」
「杳…」
「ごめん…」
今更どうしてこんなことを言い出すのだろうか。その理由に思い至って、潤也は胸に込み上げてくる思いをぐっと堪える。
そして、杳の肩を抱き寄せた。