第6章
君がために
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パソコンはアパートの自分の部屋に置いている。結界の中に電話線も通せば良いのだが、まさかここで必要となるとは思わなかったので、そのままにしていたのだった。
お陰で、いったん結界を出ていかなければならない。自分の身は危険になるが、逆に結界内には竜王が二人揃っているので、心配はいらなかった。
二人揃ったので、これからは少しは楽に動けるようになる。自分にとっては喜ばしいことなのだが、気分はどこか優れなかった。
別に紗和のことが嫌いなのではなかった。あのお坊ちゃん然とした無神経さが鼻に付くが、悪い人間ではないと分かっていた。
「あれ…?」
結界を出ようとした時、潤也はそこに、誰かがたった今通った形跡のあることに気づいた。自分の作った結界なので、その跡がはっきり見えるのだった。
瞬時に結界内をサーチして、中にいる筈の者がいなくなっていることを知った。
「ヒロと、杳…」
ギョッとして、潤也は慌てて結界をくぐって外へ飛び出した。結界の入り口にしている居間から出てキッチンへ入り、そこに二人の姿を見つけた。
「ヒロっ」
玄関口で靴を履いている寛也と杳に駆け寄る。
寛也は名を呼ばれて、気まずそうな顔を向けてきた。
「何やってるの? 結界から出たりしたら危険だよ」
きつい口調でそう言いながら、寛也に支えられるようにして立つ杳の肩に触れて、一瞬、ギョッとする。
竜とは異なる存在である人であっても、気の力は存在する。それは生命力ともリンクしていて、往々にして年若い者程、強い気を放つ傾向にある。
その気が、杳から感じられなかったのだった。
「悪ィ、見逃してくれ」
寛也は気が付かないのだろうか。いや、真剣な表情はそれを承知のうえのように見えた。分かっていて、杳を連れ出そうとしているのだった。
寛也は杳を引き寄せて、腕の中へ取り込む。睨む潤也から隠すように。
潤也はそれ以上言葉を失って、じっと杳を見やる。
寛也の腕の中で静かに目を閉じている杳は、小さく浅い呼吸をするだけで、顔を上げようともしない。それさえも辛いのだろうことがうかがえる。